隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~
第二章 王との見合い
11 婚約者候補
少し時間が進み、夏前のある日、珍しく両親と兄三人とレティツィアが揃った夕食を楽しみ、食後に全員で場所を談話室へ移動した。レティツィアは食後のお茶、両親と兄三人はワインを片手に、会話をする。両親が二人用のソファー、レティツィアはアルノルドとシルヴィオに挟まれて座り、ロメオは一人用のソファーに座っていた。
父が口を開いた。その内容に、レティツィアは驚いた声を出した。
「わたくしが婚約者?」
「違う、婚約者候補の打診だ」
聞けば、海を隔てた隣国アシュワールドから、レティツィアにアシュワールド王の婚約者候補としての打診が来たらしい。アシュワールドはヴォロネル王国より土地が広く、国も豊かな大国である。ちなみにだが、アシュワールドは海を渡らずに陸から行こうとすれば、間に迷惑な第二王子の出身地プーマ王国を通ることになる。つまり、ヴォロネル王国の隣がプーマ王国、その隣がアシュワールドである。陸続きなら隣の隣の国、海を渡るなら隣国ということだ。ちなみに、アシュワールドは国名に王国とは付かないが、君主は王である。
母と兄三人はすでに聞いていたらしく、レティツィアの反応を見ている。それを見て、レティツィアはじわじわと涙が溢れるのを感じていた。みんな納得の話なのかと悲しくなってくる。
「わたくしに、遠くに嫁げということですか!? お父様とお母様とお兄様たちと離れたくはありません!」
ぐずぐずと泣き出したレティツィアに、慌ててシルヴィオが抱きしめた。
「違う違う。俺たちは、レティを遠くにやるつもりではないよ。少しの間、レティの気分転換に国外を旅行するのもいいかと思ったんだ」
「……旅行?」
四度目の誘拐未遂以降、護衛を増やし、一段と警戒をしているお陰か、いまのところ五度目の誘拐はない。初めて誘拐されかけて以降、誘拐のせいで不便な思いをレティツィアにさせないよう、両親と兄たちは気を配ってくれている。できるだけ、いつものように生活して、お出かけして、と普段通りにできる範囲で過ごしているが、それでも不便なことは多い。
もう少ししたら、王立学園を第二王子が卒業するだろう。秋にはレティツィアの成人となる十八歳の誕生日が控えている。夏以降、今以上に第二王子を警戒する必要がありそうなのは、今でも想像が付いている。きっと王宮に今以上に引きこもることになるだろう。その前に、少しレティツィアの羽を伸ばさせたい、ということらしい。
「……では、婚約者候補というのは?」
「ちょうど、先日アシュワールドから書簡が来た」
父から引き継ぎ、アルノルドが説明を始めた。
アシュワールドの王は現在二十三歳で独身。そろそろ伴侶を得たいと、婚約者に相応しい女性を探しているところである。現在、候補者を一人ずつ国に招待しているところで、レティツィアが婚約者として相応しいか会って話がしたい、ということらしい。
「候補者といっても、レティツィアで十二人目らしい。候補者として呼ばれた者は、一週間ほどアシュワールドの王宮に滞在して、王と対談することになるという。要はお見合いだな。そこで最終的に婚約者として相応しい、となれば婚約だが、今のところ、誰も婚約まで至ったものはいないらしい」
レティツィアはパチパチと瞬きした。十人以上とお見合いをして、まだ婚約までいった人がいないとは、どういうことなのだろう。
シルヴィオが口を開いた。
「アシュワールド王は理想が高いのか、えり好みしているのか、とにかく婚約する気がなさそうに見えるね」
「王の周りが、早く結婚しろと口出ししているだけの可能性もあるぞ」
ロメオが答えると、シルヴィオは頷く。
「それもありえるね。周囲からすれば、『早く世継ぎを』となるだろうしね。そういうわけで、どちらにしても婚約に前向きでなさそうな王だから、レティが出向いても婚約せずに済みそう、と俺たちが話をしていたんだ」
シルヴィオはレティツィアを右手で抱き寄せて顔を覗く。
「レティがアシュワールドに出向く、となれば、我が国としては内密に動く。第二王子にも気取らせない。こちらから護衛を多く出すけれど、アシュワールドも大事な王女を預かるとなるわけだから、護衛を多く出してくれるだろう。レティが危ない目に遭う可能性は低い。だから、少しの間にはなるけれど、旅行気分で息抜きしておいで」
「お兄様……」
両親と兄たちの気持ちが嬉しくて、シルヴィオに抱き付く。「んー、可愛い可愛い」と言うシルヴィオから額にキスを受けながら、レティツィアは父に頷いた。
「分かりました。アシュワールドへ出向きます」
「そうか」
全員がレティツィアがアシュワールドへ一時渡ることに頷く。
ロメオが口を開いた。
「しかし、あちらの王がレティの可愛さに衝撃を受けて、レティと婚約すると言ってきたらどうします?」
完全に兄馬鹿のセリフである。
「十分ありえるな。その時は、婚約しないと突っ返せばいい」
アルベルトはロメオに続いて兄馬鹿を発揮した。
確かに、可愛さという兄馬鹿のことは置いておいて、国の力関係や繋がり等、損得利益を考えた婚約は十分にありえる話である。というより、そのほうが王族の結婚としては一般的だ。今は婚約者『候補』の段階で、アシュワールド王が納得すれば、レティツィアに婚約しようと言ってくる可能性はあるが、こちらとしては、「レティツィアが王を気に入らなかったから婚約しません」と露骨には言わなくても、断ることはできるのだ。
どちらにしても、婚約は断れると聞いて、レティツィアは安心してアシュワールドへ行けそうだとほっとする。
頭の中は、すでに旅行気分になり、久しぶりに気分が上がって来るのだった。
父が口を開いた。その内容に、レティツィアは驚いた声を出した。
「わたくしが婚約者?」
「違う、婚約者候補の打診だ」
聞けば、海を隔てた隣国アシュワールドから、レティツィアにアシュワールド王の婚約者候補としての打診が来たらしい。アシュワールドはヴォロネル王国より土地が広く、国も豊かな大国である。ちなみにだが、アシュワールドは海を渡らずに陸から行こうとすれば、間に迷惑な第二王子の出身地プーマ王国を通ることになる。つまり、ヴォロネル王国の隣がプーマ王国、その隣がアシュワールドである。陸続きなら隣の隣の国、海を渡るなら隣国ということだ。ちなみに、アシュワールドは国名に王国とは付かないが、君主は王である。
母と兄三人はすでに聞いていたらしく、レティツィアの反応を見ている。それを見て、レティツィアはじわじわと涙が溢れるのを感じていた。みんな納得の話なのかと悲しくなってくる。
「わたくしに、遠くに嫁げということですか!? お父様とお母様とお兄様たちと離れたくはありません!」
ぐずぐずと泣き出したレティツィアに、慌ててシルヴィオが抱きしめた。
「違う違う。俺たちは、レティを遠くにやるつもりではないよ。少しの間、レティの気分転換に国外を旅行するのもいいかと思ったんだ」
「……旅行?」
四度目の誘拐未遂以降、護衛を増やし、一段と警戒をしているお陰か、いまのところ五度目の誘拐はない。初めて誘拐されかけて以降、誘拐のせいで不便な思いをレティツィアにさせないよう、両親と兄たちは気を配ってくれている。できるだけ、いつものように生活して、お出かけして、と普段通りにできる範囲で過ごしているが、それでも不便なことは多い。
もう少ししたら、王立学園を第二王子が卒業するだろう。秋にはレティツィアの成人となる十八歳の誕生日が控えている。夏以降、今以上に第二王子を警戒する必要がありそうなのは、今でも想像が付いている。きっと王宮に今以上に引きこもることになるだろう。その前に、少しレティツィアの羽を伸ばさせたい、ということらしい。
「……では、婚約者候補というのは?」
「ちょうど、先日アシュワールドから書簡が来た」
父から引き継ぎ、アルノルドが説明を始めた。
アシュワールドの王は現在二十三歳で独身。そろそろ伴侶を得たいと、婚約者に相応しい女性を探しているところである。現在、候補者を一人ずつ国に招待しているところで、レティツィアが婚約者として相応しいか会って話がしたい、ということらしい。
「候補者といっても、レティツィアで十二人目らしい。候補者として呼ばれた者は、一週間ほどアシュワールドの王宮に滞在して、王と対談することになるという。要はお見合いだな。そこで最終的に婚約者として相応しい、となれば婚約だが、今のところ、誰も婚約まで至ったものはいないらしい」
レティツィアはパチパチと瞬きした。十人以上とお見合いをして、まだ婚約までいった人がいないとは、どういうことなのだろう。
シルヴィオが口を開いた。
「アシュワールド王は理想が高いのか、えり好みしているのか、とにかく婚約する気がなさそうに見えるね」
「王の周りが、早く結婚しろと口出ししているだけの可能性もあるぞ」
ロメオが答えると、シルヴィオは頷く。
「それもありえるね。周囲からすれば、『早く世継ぎを』となるだろうしね。そういうわけで、どちらにしても婚約に前向きでなさそうな王だから、レティが出向いても婚約せずに済みそう、と俺たちが話をしていたんだ」
シルヴィオはレティツィアを右手で抱き寄せて顔を覗く。
「レティがアシュワールドに出向く、となれば、我が国としては内密に動く。第二王子にも気取らせない。こちらから護衛を多く出すけれど、アシュワールドも大事な王女を預かるとなるわけだから、護衛を多く出してくれるだろう。レティが危ない目に遭う可能性は低い。だから、少しの間にはなるけれど、旅行気分で息抜きしておいで」
「お兄様……」
両親と兄たちの気持ちが嬉しくて、シルヴィオに抱き付く。「んー、可愛い可愛い」と言うシルヴィオから額にキスを受けながら、レティツィアは父に頷いた。
「分かりました。アシュワールドへ出向きます」
「そうか」
全員がレティツィアがアシュワールドへ一時渡ることに頷く。
ロメオが口を開いた。
「しかし、あちらの王がレティの可愛さに衝撃を受けて、レティと婚約すると言ってきたらどうします?」
完全に兄馬鹿のセリフである。
「十分ありえるな。その時は、婚約しないと突っ返せばいい」
アルベルトはロメオに続いて兄馬鹿を発揮した。
確かに、可愛さという兄馬鹿のことは置いておいて、国の力関係や繋がり等、損得利益を考えた婚約は十分にありえる話である。というより、そのほうが王族の結婚としては一般的だ。今は婚約者『候補』の段階で、アシュワールド王が納得すれば、レティツィアに婚約しようと言ってくる可能性はあるが、こちらとしては、「レティツィアが王を気に入らなかったから婚約しません」と露骨には言わなくても、断ることはできるのだ。
どちらにしても、婚約は断れると聞いて、レティツィアは安心してアシュワールドへ行けそうだとほっとする。
頭の中は、すでに旅行気分になり、久しぶりに気分が上がって来るのだった。