隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~
22 お見合い三日目
レティツィアが自室に戻ると、慌しくディナーの支度を始めた。先ほどまでオスカーと一緒にいたものの、本日のお見合いの予定はこれからなのである。
風呂に入り、ドレスを着て、髪を整え、化粧をする。マリアがてきぱきと動き、街娘姿とは一変して王女が出来上がった。なんとかギリギリ準備を終えたレティツィアは、迎えに来た使用人に連れられ、マリアと共に今日のお見合いである王宮のディナー会場へ移動する。
今回は先に来ていたオスカーが、レティツィアを見て笑みを浮かべ、近づいてきた。
「俺の妻は、見るたびに魅力的ですね」
そう口にしたオスカーは、レティツィアの手をすくい、指先にキスをした。
どうしたのだろう、オスカーは今日になって頻繁に『妻』と口にしては、なんだか雰囲気が柔らかく甘い気がする。『夫婦ごっこ』を提案したのはレティツィアのはずなのに、なぜか『夫婦ごっこ』中に動揺しているのはレティツィアのほうだった。手にキスされるのは、自国でも慣れているはずなのに、心臓が煩い。
「……オスカー様も、とても魅力的です。今日の昼も、今も」
「ありがとう」
にこやかなオスカーにエスコートされ、レティツィアは席に着く。今日のディナー会場は、部屋は広くはないが、華やかながらに落ち着く部屋であった。レティツィアが聞いたところによると、王と王妃が一緒に食事をするときに使用される部屋らしい。
昼とは違い、上品な食事に舌鼓を打つ。オスカーとは近すぎない席だからか、レティツィアは本来の王女としての落ち着きを取り戻し、いつものレティツィアらしい会話ができていた。
「明日のお見合いですが、ピクニックはいかがですか?」
「ピクニックですか?」
「王宮の敷地内に小さいですが湖があります。その畔の木陰で昼食、といっても軽食の形にしますが、一緒に昼食をして、その後はそこでゆっくりとした時間を過ごすのはいかがかと思いまして」
「まあ! それはいいですね!」
外で誰を気にすることなく、ゆっくりとした時間が過ごせるなんて、なんて贅沢なのだろう。王女という身分だからこそ、誰かに見られていると常に意識しているレティツィアにとって、オスカーの提案は嬉しいものだった。
「ですが、オスカー様はお仕事は大丈夫なのでしょうか? 本日もほとんど一緒にいていただいていますし……」
「明日は午前中には仕事は終わりますので、お気になさらず」
レティツィアは嬉しくてオスカーに笑顔を向けた。
「そうなのですね。嬉しいです。楽しみにしていますわ」
それからも会話の弾むディナーは過ぎ、レティツィアは自室に戻ってきた。再びお風呂に入り、猫のディディーと遊び、欠伸とともにベッドに入る。
ベッドに入ったレティツィアに掛け布団を掛けているマリアを見ながら、レティツィアは口を開いた。
「もう少し、ここにいてくれる?」
「承知しました」
笑みを浮かべたマリアは、ベッド脇に椅子を持ってくると、そこに座りレティツィアの手を握った。
「今日のレティツィア殿下は、大変楽しそうにしていらして、ようございました」
「うん、すごく楽しかった! 案内していただいた名所、どれも素敵だったわ。あれで、まだ王都の三分の一も紹介できていない、とオスカー様おっしゃっていたわね。王都は広いわ。まだ見たことのないところも、案内していただけると嬉しいのだけれど」
「お願いしてみては、いかがですか?」
「……オスカー様、お忙しいのではなくて? あまりお願いしては、わがままが過ぎるのではないかしら」
「ですが今回は『わがまま』を言う旅なのでしょう? 今のところ、陛下は嫌な顔はされていませんよ。もっと『わがまま』を言って、陛下に婚約者になってもらいたいと思わないで欲しいのですよね?」
「……そうだったわ」
今のところ、オスカーは戸惑いを見せてはいても、レティツィアの『わがまま』に否やは唱えていない。
「言うだけ言ってみたらいかがです? 断られたら、諦めればよいのですから」
「そうね、言う機会があれば、お願いしてみようかしら。オスカー様、すごく優しい方だもの、聞いて下さるかもしれないわ」
オスカーは王のはずなのに、この国の最高権力者なのに、レティツィアのわがままに笑顔で付き合ってくれる。
「オスカー様って、ご兄弟はお兄様がいらっしゃっただけで、弟妹はおられないと聞いているわ。でも、わたくしが何を言っても怒らないし、お兄様みたいに甘やかし上手よね。わたくしのことも、きっと妹のように思ってくださっている気がするわ」
「……そうかもしれませんね。昔シルヴィオ殿下がレティツィア殿下にされていたように、頬を舐められていましたし」
「あ、あれはっ……! わたくし、少し恥ずかしかったの。なんだか……お兄様とは違って、こういうのって何というのかしら」
「…………」
頬を舐められたのを思い出し、レティツィアは頬を触る。今も熱くなっている気がする。
「……きっと、会って間もないオスカー様だから、恥ずかしいだけよね? 慣れたら恥ずかしくなくなるはずだわ」
ただ、慣れるまでこの国にいることはない。レティツィアが滞在するのは、あと数日。
「もう眠くなってきたわ。マリア、寝るまで手を握っていてね?」
「はい」
レティツィアが眠りに落ちるまで、ほんの数秒。レティツィアは夢の中に誘われるのだった。
風呂に入り、ドレスを着て、髪を整え、化粧をする。マリアがてきぱきと動き、街娘姿とは一変して王女が出来上がった。なんとかギリギリ準備を終えたレティツィアは、迎えに来た使用人に連れられ、マリアと共に今日のお見合いである王宮のディナー会場へ移動する。
今回は先に来ていたオスカーが、レティツィアを見て笑みを浮かべ、近づいてきた。
「俺の妻は、見るたびに魅力的ですね」
そう口にしたオスカーは、レティツィアの手をすくい、指先にキスをした。
どうしたのだろう、オスカーは今日になって頻繁に『妻』と口にしては、なんだか雰囲気が柔らかく甘い気がする。『夫婦ごっこ』を提案したのはレティツィアのはずなのに、なぜか『夫婦ごっこ』中に動揺しているのはレティツィアのほうだった。手にキスされるのは、自国でも慣れているはずなのに、心臓が煩い。
「……オスカー様も、とても魅力的です。今日の昼も、今も」
「ありがとう」
にこやかなオスカーにエスコートされ、レティツィアは席に着く。今日のディナー会場は、部屋は広くはないが、華やかながらに落ち着く部屋であった。レティツィアが聞いたところによると、王と王妃が一緒に食事をするときに使用される部屋らしい。
昼とは違い、上品な食事に舌鼓を打つ。オスカーとは近すぎない席だからか、レティツィアは本来の王女としての落ち着きを取り戻し、いつものレティツィアらしい会話ができていた。
「明日のお見合いですが、ピクニックはいかがですか?」
「ピクニックですか?」
「王宮の敷地内に小さいですが湖があります。その畔の木陰で昼食、といっても軽食の形にしますが、一緒に昼食をして、その後はそこでゆっくりとした時間を過ごすのはいかがかと思いまして」
「まあ! それはいいですね!」
外で誰を気にすることなく、ゆっくりとした時間が過ごせるなんて、なんて贅沢なのだろう。王女という身分だからこそ、誰かに見られていると常に意識しているレティツィアにとって、オスカーの提案は嬉しいものだった。
「ですが、オスカー様はお仕事は大丈夫なのでしょうか? 本日もほとんど一緒にいていただいていますし……」
「明日は午前中には仕事は終わりますので、お気になさらず」
レティツィアは嬉しくてオスカーに笑顔を向けた。
「そうなのですね。嬉しいです。楽しみにしていますわ」
それからも会話の弾むディナーは過ぎ、レティツィアは自室に戻ってきた。再びお風呂に入り、猫のディディーと遊び、欠伸とともにベッドに入る。
ベッドに入ったレティツィアに掛け布団を掛けているマリアを見ながら、レティツィアは口を開いた。
「もう少し、ここにいてくれる?」
「承知しました」
笑みを浮かべたマリアは、ベッド脇に椅子を持ってくると、そこに座りレティツィアの手を握った。
「今日のレティツィア殿下は、大変楽しそうにしていらして、ようございました」
「うん、すごく楽しかった! 案内していただいた名所、どれも素敵だったわ。あれで、まだ王都の三分の一も紹介できていない、とオスカー様おっしゃっていたわね。王都は広いわ。まだ見たことのないところも、案内していただけると嬉しいのだけれど」
「お願いしてみては、いかがですか?」
「……オスカー様、お忙しいのではなくて? あまりお願いしては、わがままが過ぎるのではないかしら」
「ですが今回は『わがまま』を言う旅なのでしょう? 今のところ、陛下は嫌な顔はされていませんよ。もっと『わがまま』を言って、陛下に婚約者になってもらいたいと思わないで欲しいのですよね?」
「……そうだったわ」
今のところ、オスカーは戸惑いを見せてはいても、レティツィアの『わがまま』に否やは唱えていない。
「言うだけ言ってみたらいかがです? 断られたら、諦めればよいのですから」
「そうね、言う機会があれば、お願いしてみようかしら。オスカー様、すごく優しい方だもの、聞いて下さるかもしれないわ」
オスカーは王のはずなのに、この国の最高権力者なのに、レティツィアのわがままに笑顔で付き合ってくれる。
「オスカー様って、ご兄弟はお兄様がいらっしゃっただけで、弟妹はおられないと聞いているわ。でも、わたくしが何を言っても怒らないし、お兄様みたいに甘やかし上手よね。わたくしのことも、きっと妹のように思ってくださっている気がするわ」
「……そうかもしれませんね。昔シルヴィオ殿下がレティツィア殿下にされていたように、頬を舐められていましたし」
「あ、あれはっ……! わたくし、少し恥ずかしかったの。なんだか……お兄様とは違って、こういうのって何というのかしら」
「…………」
頬を舐められたのを思い出し、レティツィアは頬を触る。今も熱くなっている気がする。
「……きっと、会って間もないオスカー様だから、恥ずかしいだけよね? 慣れたら恥ずかしくなくなるはずだわ」
ただ、慣れるまでこの国にいることはない。レティツィアが滞在するのは、あと数日。
「もう眠くなってきたわ。マリア、寝るまで手を握っていてね?」
「はい」
レティツィアが眠りに落ちるまで、ほんの数秒。レティツィアは夢の中に誘われるのだった。