隣国王を本気にさせる方法~誘拐未遂4回目の王女は、他国執着王子から逃げ切ります~
24 お見合い四日目2
それからも二人は軽食の昼食を続け、食事が終わると使用人が食事を片付けた。そして、敷き布の上をオスカーが少し場所移動をして、木に背中を預けると、レティツィアを手招きする。首を傾げつつも、レティツィアはオスカーに近づくと、オスカーが自身の足を指して口を開いた。
「ここに座ってください」
「……膝の上ですか?」
「いいえ、俺の太ももと太ももの間です」
「………………」
「『夫婦ごっこ』でしょう? 妻なら座ると思うのですが」
そう言われれば、レティツィアに否を唱えられるはずがない。オスカーの足と足に挟まれる形で、オスカーのお腹に自身の背中を向けるように床に座るが、なぜかすごく恥ずかしい。片方は足を立て、片方は足を伸ばしたオスカーはリラックスしている様子である。『ゆっくりとした時間を過ごす』とオスカーが言っていた通りの時間なのだろうが、レティツィアの心はざわついていた。先日、オスカーの膝の上に普通に座れていたはずなのに、この恥ずかしさは何なのだろう。レティツィアにも分からない。
「背中は俺に預けてください。そのままでは、ゆっくりできないでしょう」
両膝を両腕で抱えて座っていたレティツィアは、緊張で背中をピンと立てていた。その背中をオスカーに預けるなんて、今以上に緊張しそうだが、『夫婦ごっこ』としては確かにこれは不自然だろうと、レティツィアは背中をオスカーの胸に預けて、足を伸ばした。うん、まだ緊張している。
「レティツィア、体が硬くなっていますよ。力を抜いて下さい」
また難しいことを言う。オスカーの腕がレティツィアを支えるようにお腹に回っているし、耳元からオスカーの声が聞こえるし、緊張が最高潮だが、レティツィアは内心それを叱咤し、どうにか力を抜いてオスカーに体を全て預ける。
気持ちの良い風が吹き、太陽の光がぽかぽかと温かい。いまだ緊張はするものの、オスカーと一緒にいる時間がレティツィアは好きになっていた。
「こういうのんびりとした時間、わたくしは好きです」
「俺もです。というより、俺も好きだったのを思い出しました。今までほとんど休みもなく過ごしてきたので、忘れていました」
「オスカー様がのんびりできたのは、いつまでですか?」
「王となる前までですね。それまでは、将来は領地を貰い、のんびり過ごす予定でした。時々王宮に来て兄を手助けし、その合間に国内を旅するのもいいなと思い描いていたのですが、気が付いたら王となり忙しい日々が待っていましたね」
オスカーはレティツィアの手をすくい、握った。
「とはいえ、王は俺に向いていたようだ。忙しいことが苦ではないどころか、部下に『休んでくれ』と懇願される始末ですよ。部下に言わせれば、俺は少し仕事中毒気味らしいです」
「まあ……。わたくしの一番上のお兄様のようですわ。お兄様も仕事中毒気味なので、時々食事をお忘れになるのです」
「なるほど、それでレティツィアを膝に乗せて『あーん』をする『休憩係』という仕事がレティツィアにあるわけですね?」
「その通りですわ」
オスカーの推理が正しくて、レティツィアは驚きながら返事をした。少し背中をずらして、後ろを見ながらオスカーを見上げる。オスカーは笑みをレティツィアに向けた。
「レティツィアの兄上の気持ちが分かります。レティツィアは可愛いですから、癒されるのでしょう」
「……え!?」
レティツィアの顔が赤くなると同時に、なぜか青くもなる。可愛いと言われて嬉しいのだが、それは一目惚れの意味合いはないはずだと、プーマ王国第二王子のように、一目惚れされたわけではないはずだと、青くなる。オスカーに初めて会った時、一目惚れはされていないという判断を下したのだ。今更、どこを見て『可愛い』と思われたのか、焦った気持ちになる。
これでは『この子はナイな』作戦が破綻してしまうのでは、と、まだ『わがまま』が足りなかったのだと思い直す。もっと『ずうずうしい』子なんだと、『面倒な』子なんだと思ってもらうしかない。
「わ、わたくしは、その、自分で言うのも何なのですけれど、とても面倒な子なのです! お兄様たちに可愛がられたからか、優しくされないと泣いてしまいますし、寂しがりなのです。抱きしめて欲しいし、キスして欲しいし、たくさん愛して欲しいのです。お兄様たちはそれら全て叶えてくれますから、わたくしは夫になる方にもお兄様のように接して欲しいことを願ってしまう、『わがまま』な子なのです!」
一気にまくしたてると、レティツィアの耳元でくすくすと笑う声がする。
「そうですか。そんな『可愛い』願いなら、俺だったら妻のためなら、喜んでしますよ」
「……『可愛い』願い?」
「ええ、可愛いです。もうすでに、妻となったレティツィアのそんな姿は目に浮かぶ」
あれ、これって『わがまま』だったはず。カルロがそう言っていた。親しくもない相手からは、されたくないことだったはず。なのに、『可愛い』とはどういうことなのだろうか。
レティツィアは自分の『わがまま』が『わがまま』だとは分かりつつも、心のどこかでレティツィアの言うことなのだから仕方ないな、とレティツィアの願いを聞いてくれる人が夫になると嬉しいと思っていた。そんな夢のようなことをオスカーに肯定され、なんだか泣きたくなる。
オスカーはレティツィアの夫には成りえない。きっとレティツィアは一応のお見合い相手だから、レティツィアが嬉しくなる言葉を言ってくれるだけなのだ。そうと分かっていても、オスカーの言葉がすごく嬉しい。
オスカーなら、誰が相手でも素敵な良い夫となるだろう。しかし、レティツィアはそんな希望は持ってはいけない。プーマ王国の第二王子という爆弾から執着されているレティツィアは、アシュワールドにとっても良い結婚相手ではない。それに、帰国したら第二王子と結婚するのだと両親に告げる予定なのに、レティツィアはその決心が揺らぎそうになる。
レティツィアは泣きそうな顔を我慢し、笑顔をオスカーに向けた。
「オスカー様は懐が大きい方ですね。『わがまま』なわたくしでも可愛いと言って下さるなんて」
再びオスカーから顔を前に戻し、心を落ち着かせる。王女の仮面を付けなければ、そう自身に言い聞かせ、笑みを浮かべたのに、オスカーはレティツィアの心の内を見破るかのような言葉を口にした。
「ここに座ってください」
「……膝の上ですか?」
「いいえ、俺の太ももと太ももの間です」
「………………」
「『夫婦ごっこ』でしょう? 妻なら座ると思うのですが」
そう言われれば、レティツィアに否を唱えられるはずがない。オスカーの足と足に挟まれる形で、オスカーのお腹に自身の背中を向けるように床に座るが、なぜかすごく恥ずかしい。片方は足を立て、片方は足を伸ばしたオスカーはリラックスしている様子である。『ゆっくりとした時間を過ごす』とオスカーが言っていた通りの時間なのだろうが、レティツィアの心はざわついていた。先日、オスカーの膝の上に普通に座れていたはずなのに、この恥ずかしさは何なのだろう。レティツィアにも分からない。
「背中は俺に預けてください。そのままでは、ゆっくりできないでしょう」
両膝を両腕で抱えて座っていたレティツィアは、緊張で背中をピンと立てていた。その背中をオスカーに預けるなんて、今以上に緊張しそうだが、『夫婦ごっこ』としては確かにこれは不自然だろうと、レティツィアは背中をオスカーの胸に預けて、足を伸ばした。うん、まだ緊張している。
「レティツィア、体が硬くなっていますよ。力を抜いて下さい」
また難しいことを言う。オスカーの腕がレティツィアを支えるようにお腹に回っているし、耳元からオスカーの声が聞こえるし、緊張が最高潮だが、レティツィアは内心それを叱咤し、どうにか力を抜いてオスカーに体を全て預ける。
気持ちの良い風が吹き、太陽の光がぽかぽかと温かい。いまだ緊張はするものの、オスカーと一緒にいる時間がレティツィアは好きになっていた。
「こういうのんびりとした時間、わたくしは好きです」
「俺もです。というより、俺も好きだったのを思い出しました。今までほとんど休みもなく過ごしてきたので、忘れていました」
「オスカー様がのんびりできたのは、いつまでですか?」
「王となる前までですね。それまでは、将来は領地を貰い、のんびり過ごす予定でした。時々王宮に来て兄を手助けし、その合間に国内を旅するのもいいなと思い描いていたのですが、気が付いたら王となり忙しい日々が待っていましたね」
オスカーはレティツィアの手をすくい、握った。
「とはいえ、王は俺に向いていたようだ。忙しいことが苦ではないどころか、部下に『休んでくれ』と懇願される始末ですよ。部下に言わせれば、俺は少し仕事中毒気味らしいです」
「まあ……。わたくしの一番上のお兄様のようですわ。お兄様も仕事中毒気味なので、時々食事をお忘れになるのです」
「なるほど、それでレティツィアを膝に乗せて『あーん』をする『休憩係』という仕事がレティツィアにあるわけですね?」
「その通りですわ」
オスカーの推理が正しくて、レティツィアは驚きながら返事をした。少し背中をずらして、後ろを見ながらオスカーを見上げる。オスカーは笑みをレティツィアに向けた。
「レティツィアの兄上の気持ちが分かります。レティツィアは可愛いですから、癒されるのでしょう」
「……え!?」
レティツィアの顔が赤くなると同時に、なぜか青くもなる。可愛いと言われて嬉しいのだが、それは一目惚れの意味合いはないはずだと、プーマ王国第二王子のように、一目惚れされたわけではないはずだと、青くなる。オスカーに初めて会った時、一目惚れはされていないという判断を下したのだ。今更、どこを見て『可愛い』と思われたのか、焦った気持ちになる。
これでは『この子はナイな』作戦が破綻してしまうのでは、と、まだ『わがまま』が足りなかったのだと思い直す。もっと『ずうずうしい』子なんだと、『面倒な』子なんだと思ってもらうしかない。
「わ、わたくしは、その、自分で言うのも何なのですけれど、とても面倒な子なのです! お兄様たちに可愛がられたからか、優しくされないと泣いてしまいますし、寂しがりなのです。抱きしめて欲しいし、キスして欲しいし、たくさん愛して欲しいのです。お兄様たちはそれら全て叶えてくれますから、わたくしは夫になる方にもお兄様のように接して欲しいことを願ってしまう、『わがまま』な子なのです!」
一気にまくしたてると、レティツィアの耳元でくすくすと笑う声がする。
「そうですか。そんな『可愛い』願いなら、俺だったら妻のためなら、喜んでしますよ」
「……『可愛い』願い?」
「ええ、可愛いです。もうすでに、妻となったレティツィアのそんな姿は目に浮かぶ」
あれ、これって『わがまま』だったはず。カルロがそう言っていた。親しくもない相手からは、されたくないことだったはず。なのに、『可愛い』とはどういうことなのだろうか。
レティツィアは自分の『わがまま』が『わがまま』だとは分かりつつも、心のどこかでレティツィアの言うことなのだから仕方ないな、とレティツィアの願いを聞いてくれる人が夫になると嬉しいと思っていた。そんな夢のようなことをオスカーに肯定され、なんだか泣きたくなる。
オスカーはレティツィアの夫には成りえない。きっとレティツィアは一応のお見合い相手だから、レティツィアが嬉しくなる言葉を言ってくれるだけなのだ。そうと分かっていても、オスカーの言葉がすごく嬉しい。
オスカーなら、誰が相手でも素敵な良い夫となるだろう。しかし、レティツィアはそんな希望は持ってはいけない。プーマ王国の第二王子という爆弾から執着されているレティツィアは、アシュワールドにとっても良い結婚相手ではない。それに、帰国したら第二王子と結婚するのだと両親に告げる予定なのに、レティツィアはその決心が揺らぎそうになる。
レティツィアは泣きそうな顔を我慢し、笑顔をオスカーに向けた。
「オスカー様は懐が大きい方ですね。『わがまま』なわたくしでも可愛いと言って下さるなんて」
再びオスカーから顔を前に戻し、心を落ち着かせる。王女の仮面を付けなければ、そう自身に言い聞かせ、笑みを浮かべたのに、オスカーはレティツィアの心の内を見破るかのような言葉を口にした。