Magic Halloween

あたしはそのまままた外に出て、さっきと同じベンチに腰掛けた。
夜風に当たると、心が少し落ちついていく。


“好きな子、いるよ”

さっきの言葉が蘇る。
高斗だって、高校生なんだから恋くらいするはずだ。
でも心のどこかで考えないようにしていたことを予想外のタイミングで教えられて、心の準備がまるでできなかった。
ひざに顔をうずめて、泣きそうになるのを必死にこらえた。

「うそばっかだ」

なんて欲張りなんだろ。
かなわない恋なんて、知ってたのに。

少しでもしゃべれたら満足って思ったのはあたしなのに。
それでも話せたらやっぱりもう一度って思う。
あたしって気付いてほしいって思う。

一つかなえばもっとって思って、その思いから離れられない。

恋って、よくばりだ。


「やり逃げなんて、よくないよ?」
「うわああ!」
突然横からさっき平手打ちした顔が出てきて、思いっきり身体をそらす。
「かわいくない声だすなー」
少し楽しそうに笑いながら当たり前みたいに横に座る。
近すぎるのでさりげなくベンチの端までずれた。

この人、ほんとに距離近い。

「泣きそうな顔、さっきしてたでしょ」
「――してないです」
「うそばっかり」
そっと指であたしのあごをすくう。
捕らえたのは、静かな冷たい瞳。
でもそれは、気を抜けば一瞬で虜になってしまいそうななにかをもっていた。

だからこういうの免疫ないんだってばっ!
静まれ心臓!

「ゆりかさー、男に免疫ないでしょ?」
「ほ、ほっといてください」
「俺が、教えてあげよっか?」
唐突すぎかつありえない提案に、一瞬で背筋が凍った。

……は?
なにいってんのこの人。

「あの」
「手取り足取り教えてあげるよ」
口角をあげて、色気を漂わせながら、あたしの髪を指ですいた。
「結構ですっっ!」
勢いよく断言すると、
「ふっあはは」
こらえきれなかったのか勢いよくふきだされた。
ひぃひぃいいながら、楽しそうにしている。

なんなわけいったい!

「からかっただけなのに、かわいいねえ」

なんなのこいつ!!
腹立つ!!

「あんた、楽しい」
「あたしは楽しくないです!」

無視である。
よしよしあたしの頭を撫でる。

「……なんなんですか、いったい」
「ん?」
「なんであたしに構うんですか」
「面白いから」

こいつっ……!
イケメンだからってなんでも許されると思うなよ!
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