Magic Halloween

「……ごめん。泣かす、つもりじゃなかった」
そっとヤツの気配が離れるのを感じて、思わず目線をあげてしまう。
あたしをのぞきこむ瞳は、やっぱり子犬みたいで。
くぅん。と項垂れてる気がして、あたしは責めることさえできなかった。

「もう、二度としないでください」
「うん。しないよ。別にあんたのこと好きじゃないし」
「……は?」
先ほどまで好きだといったその口で、今度は好きじゃないといわれて一瞬止まる。
子犬みたいだった目はもうなくなっていて、子どもみたいな無邪気な笑顔を浮かべて、あたしの肩をとんとたたいた。
「あんた、合格」
「は?」
そのままあたしの頭をなでくりまわすヤツ。
もはやただの犬扱いだ。

「あんたなら、高斗の彼女になってもいいよ」
「は?」

もうは?しか言葉が出ない。
たぶんあたしはずっと間抜けな顔をしているはずだ。

だって意味がわからないし、ついていけない。

「あいつに近づく女、基本的に俺試してるから。俺になびいたら、そんな女いらない」
笑みを崩さないままそういったヤツに意図を知ったあたしはひとつの可能性に思い当たって背筋が凍った。
「……まさか、あんたほ」
「違うから」
堪えきれず言おうとすると、あっさりと否定される。
「でも俺、高斗のこと人として大好きだし。世話にもなってるしね。あいつに嫌な思い、してほしくないんだ」
「……それでも、あんなことしたら、女の子がかわいそう」
「俺は高斗のことが好きだっていう女の子しか試してないよ。ていうか、簡単に心変わりする女なんて、結局高斗を傷つけるだけだろ。俺、高斗のが大事だし」
なんでもないことのようにいってるが、結構すごいことを言ってると思う。
「その点、あんた合格。俺もイチオシだね」
「……ほんきでっ、こわかったし」
「うん。ごめん。泣かすつもりはなかったのはほんと。一発殴っていいよ」

ぱちんっといわれた瞬間、遠慮なく平手打ちした。
たぶんあたしの人生で2回もこんな端正な顔に平手をすることは今後無いと思う。

「いってぇっ! 遠慮ないな」
「あたりまえでしょ! あたしがっどんな迷惑したかっ」
「だから悪かったっていってんじゃん」
頬をおさえながら悪びれもない謝罪にふつふつと怒りが込み上げてくる。

ぜんっぜん反省の色見えないんですけど!

< 18 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop