Magic Halloween

「……てか、認められても意味ないし」
「なんで?」
「あんたがいったんでしょ。高斗には好きな子がいるって!」

そのせいでどんだけあたしがいまつらいか。
半分八つ当たりだけど、そんなことをいったかも忘れているかのようにきょとんと首をかしげてから、ああ、あれね。とつぶやいた。

「んー。まあいるけど、気にしなくていいじゃん」

昨日はそれでも好きなの?とか聞いてきたくせに。

「だって英理はすきなんでしょ?」

そりゃ、大好きだけど。
気にしない、なんて無理に決まってる、ふつうに。
てかもう名前呼びかよ。

「ていうかさー中庭に高斗、待たせてんだよね」
脈絡もなくそんなことをいわれて、言葉の理解が遅れた。

「――えっ、ちょっどういうこと!」
「まんまの意味だけど? もう三十分くらいまってんじゃないかなあ」
今日は天気いいなあくらいの軽いテンションでそんなことをいわれた、あたしは思わず廊下の窓に駆け寄った。

オレンジ色の中に、高斗が立っていた。
なにをするわけでもなく、ただ立っていた。

「早く行ってあげて?」
いつのまにか近寄ってきたらしいヤツにそんなことをいわれて、弾けるようにあたしは顔を上げる。
「てかあんたがまたしてんだよね?」
「石塚さんがくるっていったよ」

は!?
なにひょうひょうといってやがんだこいつ!
勝手に呼び出しされていて、高斗を待たしてる状況なんて最悪だ。

「小学校からろくにしゃべってないのに、いきなり呼ぶなんておかしいでしょ!」
「昨日話してたじゃん」
「いや、それはゆりかであってあたしじゃ……」
「まあ告白なんてしなくても、普通に話せば? “石塚恵理”として話すのは、久しぶりなんでしょ?」

どくんっと胸が揺れる。
その言葉に、心が惹かれないといったらうそだ。

“ゆりか”としてじゃない。
魔法をかけたあたしとしてじゃない。

小学校からの幼なじみの、“石塚恵理”として話せる?

「早く行かないと、帰っちゃうよ」

そんなあたしの邪な気持ちに気づいているように追い打ちをかけてくる。
でもでもだってを繰り返したら、もしかしたら高斗が帰っちゃうかも。
ただでさえ三十分待たされているなら、今すぐ歩き出して帰ってもおかしくない。


……それで、いいの?

さっきまでずっとずっと考えてた。
このままでいいのかって。
でもどうせ、なにもできないって思ってた。

ふってわいたチャンスはあたしに頑張れといってくれてるのかもしれない。

でも。

ぎゅうって目を強く閉じた瞬間。
瞼の裏に浮かんだのは、やっぱり高斗の笑顔だった。

ぐっと拳を握りしめたあと、あたしは次の瞬間には地を蹴っていた。


あたしはやっぱり、あの笑顔がもう一度見たかった。
好きな人がいるとか、三年話してないとか、頭の後ろの方でネガティブなあたしがそういっているけど。
それでもあたしは、ただ、ただもう一度話したい。

“ゆりか”としてじゃない。
“石塚恵理”として。

あたしは高斗と、昔みたいに笑い合いたいんだ。


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