Magic Halloween
階段を三階分駆け下りて、下駄箱で靴をはきかえて、中庭に飛び出す。
空も木々も色づいている世界に、高斗が一人、たたずんでいた。
今、この世界に、高斗しかいないみたいだった。
思わず見惚れていると、ふと高斗がこちらに顔を向けた。
その瞬間、高斗も大きく目を見開けるのがわかった。
あたしは呼吸をすることも忘れて、ただ高斗を見つめていた。
「えり…」
高斗の口から漏れたのは、ずっと呼んでほしいと思っていたあたしの名前で。
ゆりかと呼ばれるより何倍も何十倍も胸が弾んだ。
その瞬間。
「すき」
ぽろりと、口から滑り落ちた。
その言葉が耳を震わせたと同時に口を覆っても、もうすべてが遅かった。
わたしは、なにを、いま…。
わかっているのに現実を認めたくなくて。
高斗もあたしと同じように固まっていた。
何秒見つめあっていたのかわからなかったけれど、気づいた時には高斗はあたしの前まで駆けていた。
「いま、なんて」
「え、いや、その……」
咄嗟に出てしまった言葉をもう一度いうことは躊躇われた。
身体中発熱してるみたいだし、頭がくらくらしてくる。
「なんていったの? えり」
でもまるで懇願するかのようなその高斗の言葉を聞くと、あたしは応えなければいけない気持ちになってしまった。
「すき、て、いったの」
すきのきはもしかしたら消え失せていたかもしれない。
高斗の顔が見ていられなくなって顔を俯かせてしまう。
そんなあたしの手を、高斗は次の瞬間には引き寄せていた。
バランスを崩して高斗の胸になだれこむようにすっぽりおさまる。
……え?
え!?
ぎゅっと腕の力が強くなって、混乱するあたしの頭上から落ちてきた声は。
「……俺も好き」
夢みたいな言葉だった。
「あー、どうしよ。俺、うれしすぎて死ぬかも」
まるであたしの言葉を代弁するかのような高斗の言葉に自制もできず涙が落ちていく。
これは、あたしに都合のいい夢?
白昼夢でもみてるのかな。
でも、この温もりも匂いも腕の強さも息遣いも、すべてが夢ではないといってくれているようだった。