Magic Halloween
「ひゅー」
頭上から落ちてきた楽しそうな口笛にあたしたちは我に返って、勢いよく距離をとった。
頭上を見上げると、ヤツが窓から顔を出してこちらを見ていた。
「……うまくいったみたいだねえ!」
にやにやしているのがこの距離からでもわかる。
「お幸せにー」
それだけいって窓から消えていく影に、
「ありがとう!」
とあたしは叫んでいた。
やり方は腹が立つけど、高斗との仲が進展したのは間違いなくヤツのおかげだ。
それに応えるように窓からひらひら手だけをふって、そのまま消えていった。
二人だけに戻ると、さっきのことが思い出されて、無言になってしまう。
「とりあえず、どっか座る?」
高斗が小さくそう聞いて、あたしは頷いた。
「……うん」
ぎこちない雰囲気を保ったまま、あたしたちは木陰にあるベンチに座る。
どくんどくんと心臓がうるさい。
何度も何度も「俺も好き」という言葉が頭でリプレイされて、もう触れられていないのに、全身が熱を持っているみたいに感じた。
「なんか、なにからいったらいいかわかんないんだけど……」
静寂を破ったのは、高斗だった。
あたしが顔を向けると、高斗もあたしをみていた。
高斗の頬が昨日と同じ紅色になっていて、あたしの胸がきゅっと鳴った気がした。
「ほんと、なんだよね?」
「なに、が?」
「えりが、俺を、その、すき、って」
お互いに恥ずかしいのがわかって、会話はロボットみたいだった。
あたしはすき、という言葉がいえなくて、ただただ何度もうなずく。
そしてまた訪れる、無音の時間。
「やっばい。もう頭働かないや」
それを終わらせたのはやっぱり高斗で、そのまま頭を抱え込む。
砂利の音がして高斗のスニーカーがあたしの方を向いた。
顔をゆっくりと上げると、高斗があたしを、見ていた。
まっすぐに、あたしを。
「えり」
鼓膜を震わす、柔らかい声。
あたしが三年間、話したいと思っていた、声。
「俺も、えりがすきです」
……っっ
「そばにいたいので、つきあってください」
ああ、ほんとに、これは夢じゃないんだ。
言葉で表せない感情がせめぎあって、それをこらえることができなくて、目からこぼれおちた。
いつも、考えていた。
想像して、妄想して、一人でにやけてきゃーきゃーなって。
でもそのたびに、そんなことあるわけないって別のあたしがいってきて落ち込ませるの。
現実はそんなうまくいかないって。
「……大丈夫?」
返事がないあたしを心配してか、高斗が不安そうに問いかけてくる。
あたしは返事をしなきゃ、と思って、涙を拭った。
「ごめん、うれし、すぎて」
あたしも立ち上がって、高斗に向かって、ゆっくりと笑いかけた。
「あたしも、高斗の、そばにいたい、です」
高斗の顔がほころんでいって、そのままあたしたちは、この三年間を埋めるようにお互いを見つめて笑いあった。