Magic Halloween

たった一日だけ、魔法をかけました。
あたしは“あたし”ではなくなったのです。
その理由は、あたしにとっては大きな願いからでした。


「そういえば、ハロウィンの時の魔女ってえりだよね?」
「き、きづいてたの!?」
「いやいや、化粧したくらいで勘違いしないし。そりゃまあ可愛くなってたから驚いたけど」
衝撃的な告白に、あたしは頭が真っ白になって言葉を失った。

全部、お見通しだったってこと?
え? でも初対面っていったよね。え?

頭上にはハテナがいっぱいあるのに、声が機能してないのか質問は何も出なかった。

「それにゆりかって、昔、えりが好きだったお姫様の名前だよね」
微笑む高斗に、あたしの心臓はきゅんとしめつけられる。
「そんなこと、覚えてたんだ……」
「だってあの頃には俺もうえりのこと好きだったし」

……!?
爆弾発言に、頭さえも機能しなくなった。

「俺の片思い、長いよ」
「で、でも、中学も高校も全然しゃべらなかったのに」
「んー。一回話さなくなっちゃうと、タイミングつかめなかったっていうか……ほんとは、ずっと話したかったよ」
頬をかきながら照れくさそうにいう高斗。
まさかの答え合わせに、あたしの心臓がどきどきしっぱなしだ。
「だからあのときうれしかった。久々にしゃべれたし」
「最初から、気付いてた? 初対面っていったよね?」
「声聞くまでは自信なかったけど。初対面っていったのはえりが、自分だってばれたくないのかなって思ったから」

バレたくないって思ってたのもバレてる。
うわああああ。もうなんか色々恥ずかしい。穴があったら入りたい。

「それと、えりじゃなかったら見ず知らずの人にあんな相談しないよ」

え?
高斗が見せた弱みは、あたしだから、なの?

……あたし、最低だ。
高斗は悩んでて打ち明けてくれたのに、うれしいって思ってるなんて。

「……いたよ」
「え?」
「高斗のこと、ちゃんと大事に思ってくれてる人」

脳裏に過ぎるのは、ヤツの姿。
形は歪んでるけど、高斗のことを大事に思う気持ちは、嘘じゃないんだろうと思う。

「透のこと? あいつは腐れ縁だよ」
「でもきっと、あっちは親友だって思ってると思う」
「そっかな」
嬉しそうに笑う高斗に、あたしもつられて笑った。
「それはそうと、なんであんな格好してたの? ずいぶん、思い切ってたけど」
切り替えされた質問に固まった。

あなたとしゃべりたかったからです。なんていえません。口が裂けても。

「えっと、うん、最後だからと思って」
「仮装するのが?」
「そんなところ、です」
高斗は不思議そうに首をかしげたけど、それ以上の追及はしなかった。
「ま、いいや。あ、そうだ。帰りどっか寄らない?」
「うん……!」
「じゃ、いこう」
目の前に指しだされた手の意味を理解して頬が火照る。

ゆっくりその手を掴む。
ぎゅっと握りしめると、あたしのドキドキが伝わるんじゃないかくらい熱かった。

手汗、かいてないかな。
それさえもわからないほど、いっぱいいっぱい。


魔法のおかげで、願いは叶った。

でも恋は欲張りです。
明日も、明後日も、あなたといたい。

あなたの笑顔が見たい。

そうだ。
もう一度、魔法をかけてみよう。

正体はばれちゃってるから、“あたし”にしかなれないけれど。
お姉ちゃんの力をかりないであたし自身でがんばってみよう。

今度は高斗に“かわいい”っていってもらえるような。
そんな魔法をかけたいな。


fin.
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