この結婚には愛しかない
たっぷり口づけを交わしたあと、ごろんと寝転がった依織さんが、私を体の上に乗せた。


「俺の理性があるうちに真面目な話」

伊織さんが話すたびに、目の前の喉仏が動く。暑いと言った通り、伊織さんの体は熱い。


「今の俺の最優先事項は会社を軌道に乗せることなんだ。どうしてもそれは覆せない。独立して新体制のスタートで大ゴケするわけにはいかない」

「はい」

「もちろん莉央を全力で愛すよ。何よりも大切だから。でも、莉央と会社は別軸なんだ。どうしても今は仕事を優先してしまうことを許して欲しい。月曜から2泊で熊本だし、海外に行けば長期で家を空けることになる。それに今日みたいに、休日返上で仕事をしなければならない日もあると思う」

「はい。それはもちろん承知しています。私のことはお気になさらず仕事を優先してください。私は伊織さんをお支えしたいです」


その気持ちは、プロポーズした時から変わっていない。

伊織さんが仕事に集中出来るようにと、形だけの妻になりたいと切望したのだから。

それがまさかの結末になり、信じられないほどの幸せを、今こうして徐々に実感している。
< 109 / 348 >

この作品をシェア

pagetop