この結婚には愛しかない
「Hi!Mr. Iori!I've been waiting for you.」
ホテルのロビーで女性に流暢な英語で“待っていた”と声を掛けられ立ち止まった。
「はいミシェル、どうしたのこんなところで」
スーツケースの持ち手を握ったまま、声の主と片手で軽いハグをした。
「久しぶりね。私今シンガポールにいるの。また一緒に働けて嬉しいわ」
通訳を1人付けると会社から言われてたが、どうやらそれが彼女らしい。
台湾出身の彼女の名は 陳怡君。イングリッシュネームがミシェルだ。
彼女は世界各国に点在するホールディングスの海外支社を転々としている。確か年齢は同じくらいだったはずだ。独身の彼女は、恐らく世間一般的には非常に美人と言われる類だ。
彼女は台湾語はもちろん、英語、中国語に精通していて、日本語とフランス語も少し話せる。
語学力を買われて、今でこそ通訳の仕事がメインだが、彼女は元々は技術屋だ。
だからこそ、彼女は通訳として重宝されている。
世界共通語は英語であるため、俺は日本を出たらほぼ英語しか話さない。
俺の英語力は一般的なビジネス会話程度なら問題ないが、技術面など専門的でマニアックな要素が入ってくると、途端に会話が理解し難いものになる。
彼女はそこを上手くカバーし、わかりやすい英語に変換してくれるので非常にありがたい存在だ。