この結婚には愛しかない
「伊織、食事に行きましょ。あなたの部屋でもいいわよ」

そう言い腕を組んでくるので腕を引き抜くと、ミシェルは「ノー」と首を左右に振る。


「申し訳ない。フライトで疲れているから今日は休むよ」

「おお、そんな、せっかくあなたに会えると思って楽しみにしていたのに」

大袈裟に言い、胸元が大きく開いたボディラインがはっきり分かるドレスの肩をずらす。その肩をくねらせながら距離を詰めてくる。


「楽しみましょ」

「申し訳ない、明日オフィスで」

「ダメよ伊織。私ここで待っているわ。あなたが来てくれるまで一晩中。朝まで待ってるわ」


近くのソファーに座り、足と腕を組む彼女は恐らく本気だろう。

コーヒー(コピ・オ・コソン)だけなら」

「ノー!せめてビールよ!」

「じゃあダメだよ」

「分かったわ。それでもいいわ」

「チェックインしてくるから待ってて」


彼女と仕事で一緒になったのはこれで3回目だ。その都度こうやって誘われ続けている。

今夜はいい機会かもしれないと思い、彼女の誘いに応じることにした。
< 120 / 348 >

この作品をシェア

pagetop