この結婚には愛しかない

「長谷川くん。ちょっと休憩しない?」


早く言わなきゃ。と気は急いても、今日に限ってタイミングが合わずお昼も別々で。

出張中の伊織さんから、全事業部長宛に朝イチでビジョン10の修正指示がメールで配信されたため、一日中その対応に追われていたからだ。

伊織さんと社長が熊本出張から帰ってこられる翌日の水曜日に、修正後のビジョン10に基づいて、臨時の経営会議が開かれることになった。


「そうですね。行きましょう」

長谷川くんの目線が私の左手に落ちる。それは今日、何度も繰り返された。


休憩スペースでコーヒーを買って、テーブルを挟んで向かい合って座った。いつも合う目線が合わない。

「長谷川くん」と呼びかけ、やっと目線が交差した。


「神田専務と入籍したの」

一瞬、ほんの一瞬顔をしかめた長谷川くんが、目を逸らす。

「そうですか。おめでとうございます」

「...ありがとう」


表情に反して、祝福の言葉をくれる。

「長谷川くんの優しさに何度も支えてもらった。あの雨の日も、佐和を呼んでくれて本当にありがとう」
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