この結婚には愛しかない
長谷川くんはテーブルに両肘をついて、髪の毛をぐしゃり、手でつかみ「あー」と苛立ちのような声を出した。

「今すぐはしんどいんですけど、そのうちまた宅飲みしましょ。俺3人で飲むの好きなんですよ。たまになら、神田専務も仲間に入れてあげてもいいですよ」

「わたしも好きだよ。また3人で飲もうね」

「うわ、小泉さんはもう神田さんか。俺しばらく小泉さんって呼んじゃっていいですか?慣れそうにない」

「好きに呼んでくれたらいいよ」

「莉央」

「うん、それはおかしいよね」

「呼びたかったな...まあアレっすよ。これからも同僚には変わりないんでよろしくお願いします。しばらくぎこちなくなるのは許してください、仕方ないんで」

「こちらこそ、よろしくね」

「さて仕事しますか。あなたの旦那の修正指示エグすぎ。鬼畜かよ。でもあのくらい厳しくなきゃトップには立てないか」


トイレ行ってから戻るんで。と長谷川くんが立ち上がった。

カラになった紙コップを私の分も捨ててくれて、お手洗いに向かう背中を見送りながら。


今日もまた長谷川くんの優しさに触れ、彼がなにか困ったときは全力で手を差し伸べたいと思った。


人から受けた優しさの数以上に、人に優しくできる人間でいたい。
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