この結婚には愛しかない
「ちょっとごめんね」と立ち上がった伊織さんが、カバンからスマホを2つ取り出した。会社用と個人のだ。

社用スマホを開いて、ははっと笑った伊織さんが「本当にこの人欲しい」と画面を見せてくださった。

「月曜改めて俺から連絡するって言ったのにこのメールだよ。ほんといいよね、この抜け目のないところ」


【神田専務

いつもお世話になっております。
株式会社グリーンガイア 赤澤です。

お休みのところ失礼致します。
一言お礼を申し上げたくご連絡させて頂きました。
昨日は貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。
月曜日に改めてご連絡差し上げます。
今後ともどうぞよろしくお願い致します。

では、良い週末をお過ごしください。】


伊織さんが昨日の話をしてくださった。

早瀬社長が紹介してくれた、この丁寧なお礼メールの主は通称GGの営業本部長だそうだ。敏腕営業マンで、早瀬社長がどんなに声をかけても引き抜けなかった人らしい。

それもそのはず。内々に来期の支社長就任が決定しているとのことだった。

それを事前に聞かされた伊織さんは、あわよくば引き抜きたいという甘い期待はすぐ捨てて、飲んでる間中、どうにかこの人から何かを得たいなと考えていたらしい。
< 155 / 348 >

この作品をシェア

pagetop