この結婚には愛しかない
9.同僚で友人、甘夜と念願
「えっぐ!モデルルームかよ」
引越しの手伝いに来てくれた長谷川くんが、靴も脱がずに新居の玄関できょろきょろする。
「今日はありがとね。佐和と湊さんももうすぐ着くって」
「2人の新居がぼろアパートだったらいいのにってほのかな期待抱いてたんすけど、なわけないっすよね。億ションの最上階かよつら」
「早瀬コーポレーションの社長のご好意で住まわせていただけるの。すごいよねこの部屋。中も広くて素敵なんだ。どうぞ上がって」
「早瀬コーポの物件すか。最強ですね。くそ、小泉さんがかわいいのは知ってるんすよ。私服もマジでいつも俺好み。だからせめて専務の私服がダサくあれ!」
「あははっ。ダサくあれって、なにそれ」
長谷川くんが面白くて吹き出してしまった。
と、リビングの拭き掃除をしていた伊織さんが顔をのぞかせた。
「長谷川くんいらっしゃい。今日はありがとう。せっかくの長期休暇に悪いね、助かるよ」
「引越しおめでとうございます。ご結婚も」
「ありがとう」
伊織さんが見えなくなると、長谷川くんのボヤきが再開した。
「願いも虚しくバカかっけえ。なんすかあれ。シンプルな白Tも細身の黒スエットもかっこいいし足長すぎません?腹立つわ。ヤバいひがみが止まんねえ」
長谷川くんが面白すぎる。 よかった楽しくて。