この結婚には愛しかない
婚約指輪のお返しに何がいいかなあとずっと考えていて、伊織さんが昨日湊さんとスーツを新調したいと会話されていたので、プレゼントさせてもらうことにした。
助手席から車を発進させる運転姿を見て心奪われて。
私の視線に気付いて、「ん?」って笑ってくれる伊織さんが愛しい。
「大好きな伊織さんと夫婦になってこのお店に来れるんだよって、3年前の自分に教えてあげたいです。ウンベラータの“神田さん”を買いに来たときには、本当に悲しくて寂しくて...」
「もう2度と悲しい思いはさせないよ。出張で長期間家を空けることがあるから寂しいかもしれないけど、可能な限り連絡するし、これからは家中に俺の存在を感じれない?それに...」
膝の上に置いていた左手を取って「これもあるでしょ?」と薬指に唇を押し当てた。
「3年前に忘れていった大切な宝物を取りに戻って、一緒になれて。莉央がいてくれたら夜眠りにつく時も、朝目覚めた瞬間から幸せなんだ。新居での莉央との生活が楽しみだよ。改めてよろしくね」
「はい、あの、私も...」
「ほら泣かない。お腹すいたら泣くのかな?」
「違いますっ」
車を走らせながら、伊織さんが「何食べようか」と笑うから、一緒に笑った。