この結婚には愛しかない
その日は一日中、会議も来客予定もない落ち着いた日だった。

新入社員用ビジネスマナー研修の自作スライドを見返していたら、総務から社用スマホに電話がかかってきた。

受付に、 陳怡君(チン イージュン)様がお見えになっていると。


「チンイージュン様ですか?あ、神田専務のお客様ですね?」

『はい。神田専務と16時にお約束されてるのですが、早く着いたと仰られてまして』

会話をしながら伊織さんのスケジュールを開く。16時、確かに【陳怡君 第6応接室】とあるけれど、今は他のお客様との打ち合わせ中だ。


「まだ30分以上ありますね。6応接が空いていたらお通ししておいて下さい。専務にはもうお越しになったと連絡を入れておきます」

『それが...I want you to call Iori's wife.と仰って...あ、陳様は英語で話されています』

「私を呼んで欲しいと仰ってるんですか?」

『そうなんです...ご対応お願いできますか?』


あまりお待たせするのは失礼だと判断し、承知しましたと電話を切ったものの、困った。

英語の対応は翻訳アプリで何とか対応出来るとして、誰か分からない。

面識がないのはもちろん、名前すら聞いたことがない。性別も国籍も。陳という名前から、かろうじて台湾の方かな?と推測できるレベル。


伊織さんに、陳様を6応接にお通ししたこと。伊織さんが来られるまで私が対応するとメッセージを入れ、大森室長の許可を得てから名刺入れと社用スマホを持って1階6応接へ向かった。
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