この結婚には愛しかない
「小泉さんは社長や専務にツテがないかな?欲を言えば専務がいいんだけど」

「...ありません」

「さっき経理部長と面談してたんだけど、話にならないんだよ。もっと上の人と話をさせてくれって言ってもそれはできませんの一点張り。大森次長になぜか嫌われてるから彼にも頼めないしなあ」

「お役に立てずすみません。私はこれで」

「それにしても本当に綺麗だねえ。またこうして会えたのも何かの縁としか思えないなあ。昔のことは水に流してあげるから」


変わらず腕をなでられ続け、拒否したくても身体が言うことを聞かない。呼吸をしようとしても、息の吸い方が分からない。

と、応接室の方から人の話し声が聞こえ、支店長の手が離れた。

「(長谷川くん!)」

お客様と一緒にこっちに歩いてくる長谷川くんが私に気づき、一瞬笑顔を浮かべ、すぐ眉根を寄せた。


「大変申し訳ないんですが、同僚が具合が悪そうなので医務室に連れていきますので、ここで失礼させてください」

「ああ本当ですね。顔色が悪い。ではここで」


長谷川くんがそばに来てくれた時、いつの間にか支店長は姿を消していた。
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