この結婚には愛しかない
「神田さん大丈夫ですか?」
「支店長が...」
「支店長?あ!今の男があの?」
「そう...腕...ずっと触られてて、気持ち悪い、長谷川くん息ができない」
ぼろぼろと涙が出て息が苦しい。撫でられていた箇所をごしごし手で擦っても感覚が消えない。
「医務室行きましょう!歩ける?車椅子持ってこようか?」
「大丈夫。このくらいなら、すぐ、落ち着くと思う」
あの頃何度も過呼吸になった。初めてなった時は、このまま死んでしまうんじゃないかと怖かったのを、今でもはっきり覚えている。
「専務は社内にいる?俺呼んで来ようか」
「伊織さんには言わないで...お願い」
「...分かりました。でも医務室には連れていく」
同じ1階にある医務室に行く間、長谷川くんがずっと背中を撫でてくれて、すごく安心した。
久しぶりでパニックになりかけたけど、息をなるべく長く吐いてを繰り返し、医務室に着いた頃にはかなり治まっていた。
「長谷川くんありがとう。もう大丈夫」
「まだ顔色悪いっすよ。今から大森室長に連絡入れます。で、宮内さん呼んで俺交代します。こういう時は女性の方がいいでしょ」
「ごめんね、ありがとう」
「本当に専務呼ばなくていいんですか?」
「うん」
すぐ佐和が駆けつけてくれた。居室に戻る長谷川くんに社用スマホを預け、ちょうど定時になったので、そのまま少し佐和と医務室で話して退社した。