この結婚には愛しかない



「ただいま」

「おかえりなさい。早かったですね」

「うん」

私が家に帰った10分後くらいに伊織さんが帰ってきた。

伊織さんの笑顔が、夕方の苦しさを吹き飛ばしてくれる。

いつものように玄関でハグをしたのだけど、今日はかなり長くて力が強い。


「伊織さん?たくさんハグしてくださるんですね」

「うん」

「どうかしたんですか?」

「(・・・)」

「お疲れですか?もしかしてまた仕事でトラブルですか?」

「いや、仕事は順調だよ。第2のホールディングス探しが順調に進んでる」

「そうなんですね!よかったです」

ぎゅう、と腕に力が込められ痛いくらい。伊織さん...何かあったとしか思えない。


「あの後ミシェルさんと何かありました?」

「ミシェル?ああ、あの後ホールディングスが変わってしまったから退職を考えてると愚痴を聞かされたよ」

「そうですか...」

「莉央こそ顔色悪いけど大丈夫?」

「はい...」


伊織さんに言ってしまおうかと心が揺れる。

でもやっぱり、胸にしまうことにした。
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