この結婚には愛しかない
『経理部長がうちとの取り引きを辞めたいと仰ったので、是非とも専務と直接お話しして、発言の撤回指示をお願いしたかったんです。今までのお付き合い上、そんなの有り得ませんからね』

『御行との取引終了を経理部長に命じたのは私です。御行とはホールディングスの指示で創立以来長年に渡り取り引きしていました。独立した今、継続しなければならない理由はなくなりましたから』

『でも今までのお付き合いは良好で、長年築き上げてきた信頼関係をいきなり反故(ほご)にするなんてそんな』

『信頼関係?少なくとも、現在経営の中心にいる私とあなたの間にそれはない。取り引きは無条件無期限に続くとでもお思いですか?』

『いえ決してそういう訳では...』

伊織さんはいつも相手に敬意を払っている。その上で時と場合によっては厳しい声音で話をされる。今がまさにそれだ。

それに対して、支店長はおどおどと、情けないほど力ない声。


『弊社が独立に向け舵を切るとき、1番に行動して伴走したいと申し出てくれたのは、とある地銀でした』

『ふたば銀行ですか?』

『それは言う必要ないですよね。初動の速さはもちろんですが、御社の力になりたいと何度も仰っていただき、様々な提案をしてくださってとても心強かったです。頭取も足を運んでくださいました。それに比べて御行は何かアクションをおこしてくださいましたか?』

『いえ、でもそれはホールディングスが買収され、子会社の御社の動向を見守っていたからです。今はそっと見守ろうと...』
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