この結婚には愛しかない
「伊織さんの落ち度なんてひとつもありません。私が弱いだけで、」

「莉央は強いよ。ごめん俺、自分が情けない。莉央を守れなかった」

「伊織さんは守ってくださいました。情けなくなんかないです」

「ごめん。もう泣かないで」


人差し指で涙を拭ってくれる伊織さんの瞳にも、うっすら涙が浮かんでいて。

それを見ると余計に涙が溢れてくる。


「ごめんなさい。私のせいで伊織さんの手を煩わせてしまって」

「莉央を傷つけたあいつを、俺が許せなかった。莉央の望まないことを独断でしたことも申し訳ないと思ってる。莉央に聞かせたことも間違いだったかもしれない。あいつにも自分自身にも腹が立って判断が...」


伊織さんの潤んだ瞳が自信なく揺れる。目を逸らされ、ぐ、と奥歯を噛みしめ天を仰いだ。


「伊織さんが支店長を一刀両断してくださって感謝しています。また会うかもしれないと怯え続けなくていいですし、もし会っても我慢すればいいって、逃げることしか考えてませんでした。それに、心から信頼できる人たちがそばに居てくれたから、聞けてよかったです。全て伊織さんのおかげです。だから泣かないで...」

「泣いてない」


その言い方が小さな子どもみたいで可愛くて、可笑しくて、笑ってしまう。

小さな子どもをあやす様に、腕を精一杯伸ばして長身の伊織さんの頭を撫でた。
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