この結婚には愛しかない
「でもふたば銀行が本当にいい動きしてくれたから、あの銀行との取り引きを辞めることができた。脱ホールディングスは始まったばかりだからね。これからも大小弊害が出てくるだろうけど、ひとつづつクリアにしていかなきゃ」

「そうですね」


伊織さんが言う。社内の雰囲気も変わってきたよねと。

「挨拶の徹底をきっかけに、社内のコミュニケーションが増えたよね」

「そうですね。ビジネスは挨拶で始まり挨拶で終わると言われるほど挨拶が大切というのを実感しました。全て伊織さんのご尽力のお陰です」

「変わらないのは莉央の丁寧すぎる敬語くらいかな?」

「そんなことないです。丁寧語レベルにまで下がってますし、時々タメ口にもなってます。脳内では」

「ははっかわいいね。頭の中限定なんだ。口に出していいんだよ」

「きゃ、伊織さんっ!?」


伊織さんが突然私を抱き上げたので、とっさにしがみつく。

お姫様抱っこでデスクに連れていかれ、そのまま椅子に座った伊織さんの膝の上に座る。しがみついたままの体勢で。


「水分補給しなきゃ干からびるよ」

これ新しいから。と、デスクの上に置いてあるミネラルウォーターのペットボトルに手を伸ばし、パキ、とフタを開けて手渡してくださった。
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