この結婚には愛しかない
「いつもみたいに飲ませてあげようか?」


片方の口角を上げた唇、色情を含む瞳が、“愛し合った後、溶けて動けくなって体力もゼロになった莉央に口移しで飲ませてあげるよね?”と物語る。

その表情に、身体がキュッとなって、背中がゾクッと震えた。


「想像しちゃった?」

「伊織さんえっちです」

「ははっかわいい。仕事もプライベートも着実に進んで行って嬉しいよ。楽しみだね」

「はい!」

「莉央にはいつも笑っていて欲しい。今日泣かせてしまった分、もっと笑って欲しいから楽しい話をしよう」

身体を包み込む男らしい両腕。片方が背中をトントンしてくれる。大きくて温かくて、心や身体のこわばりがゆるゆると解けていく。


「気持ちいいです」

「そう?よかった」

私も伊織さんの背中を同じようにトントンとあやす。

怒りのせいで、精神的にも肉体的にも疲労しているはずだから。


「伊織さんも気持ちいいですか?」

「うん、癒されるよ。新婚旅行楽しみだね。海外は仕事で数え切れないほど行ったけど、妻になった莉央とだなんて浮かれちゃうよね」
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