この結婚には愛しかない
会社に戻る社用車の中で、ゆったりと長い脚を組んで外を眺める神田専務。
俺も身長177あるし、脚だって短くないはずなんだけど、なんだこの差。自信?余裕?年齢差?
「最近の宅飲みは宮内さんの家ばかりなんでしょ?うちでしてくれたらいいからね。それとも俺がいたらやりにくい?」
「あれ?神田さんから聞いてないんですか?」
「ん?何を?」
「宅飲みは専務が出張でいない日限定です。専務が家にいる時はなるべく一緒にいたいし、ご飯作りたいからって。あと専務がいない日に男性を家に入れたくないし、俺んちももう行かないって言われてます。だから宅飲みは専務が泊まりの出張の日に、宮内さんち限定開催っすよ」
「まいったな。莉央ほんとかわいい。天使だよね。長谷川くんもそう思うでしょ?」
めちゃくちゃかわいいっすよ!ガチ天使っすよ!
脳内では即答だけど、言葉は飲み込んだ。
「なんて答えるのが正解か分かりません」
「ははっ賢明だね」
怖いんだよな。この人の俺に対する「ははっ」。
地で王子様。とにかくハイスペで地位も金もある。そんな専務に牽制されることは名誉だわ。
「これからも妻をよろしく。同僚として、友人として」
「はい。こちらこそ、節度を忘れませんから安心してください」
専務はにこりと微笑み、再び窓の外に目をやった。