この結婚には愛しかない
目鼻立ちがハッキリしていて、長谷川くんと同じくらいの身長。焦げ茶の無造作なパーマヘア。

ダークグレーのスーツをかっこよく着こなしていて、柑橘系の爽やかないい匂いがする。

全身から滲み出るモテオーラがすごい。

アパレルの店員って遊んでるのかな。何歳だろう。彼女...いそう、いないわけないか。


「ね、お友達はどう思います?」

「え?」

突然話を振られて困った。何も聞いてなかった。

鏡の前でネイビーのパンツスーツを試着中の莉央が「これにしようかな」と助け舟を出してくれた。

「あ、うん、莉央色白いしネイビーいいと思う」

「では裾の長さを決めていきましょう。1番綺麗なシルエットになるように調整していきますね。お好みのスタイルありますか?」

「美脚に見えるようにお願いします」

「もちろん。お任せ下さい」

笑顔で答え、しゃがみかけたその店員に、別の男性店員が声をかけてきた。


「沖田店長変わります」

「(沖田って言うんだ...店長なんだ...)」

「ああ、中村よろしく」

目の前で交わされるやり取りを無意識に目で追っていると、沖田店長が私の顔を、じ、と凝視する。


「前にどこかで会ったことないですか?」

うわ、ショック。生まれて初めての一目惚れの相手が軽い男だった。この手口のナンパは何度も経験がある。

でもショックなのに、ドキドキする。


「は?」

口をついて出たのは、かわいいには程遠いセリフと、それ相応の冷たさを含んだ声だった。
< 238 / 348 >

この作品をシェア

pagetop