この結婚には愛しかない
口に入れるのに一瞬躊躇してしまう。これを食べてしまうと、あの時の味と幸せだった記憶が上書きされてしまう気がしたからだ。


一口食べて安堵した。ああよかった。あの味には到底及ばない。


「あっちで食べたのはこんなもんじゃなかったな」

「有名なんですか?濃厚さが違うとか?」

「浜辺で開催されたイベントで食べたのが最高に美味しかった。殻付きの炭火焼にレモン搾ったのとかね」

「うわーそれ美味そうですね。神さんがいる間に行きたかったな。ほか何食いました?ご当地グルメ。お好み焼きとか?観光もしました?」

「向こうの社員3人にいろいろ案内してもらって、グルメも食べに連れて行ってもらったよ」

へえ、珍しいな。と細谷が呟く。


「野郎ばっか4人ですか?」

「女性が2人いたよ」

「やっぱり。なんかそんな気したんですよね」

どんな心境の変化ですか?と怪訝そうな顔をする。

「基本プライベートで女性避けるでしょ。しかも社内は尚更。神さんいつもすぐ惚れられて、面倒なトラブルに巻き込まれるんだから。もしかしてそのどっちかと付き合ってた?」

「付き合ってないよ」

「まあそうですよね。1年限定ですもんね」

そう。1年間だけだ。頭では理解していたし、実際その事実が何度も俺にストップをかけた。


昨夜、俺のための送別会で幹事として奮闘してくれた彼女を、最後に何とか捕まえて2人きりになることができた。

宮内さんがかなり気を利かせてくれたおかげでもある。
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