この結婚には愛しかない
「細谷は独り身の俺と違うでしょ。それに奥さん妊娠中だよね。単身赴任でもするつもり?一家で越してくる?家族に肉体的、精神的な負担かけるなよ」

「このままここに残った方がヤバいのは目に見えてますよ。さすがに俺らの耳にも入ってます。買収されるって」


今にも泣き出しそうな細谷には、敢えて厳しい言葉をぶつけよう。

細谷ならその言葉も、言葉の理由も受け止められるはずだから。


「ホールディングスの未来が不安だから逃げたいという理由だけで連れて行けと言うならノーだ。そんな奴とは仕事はできない」

「神さん...」

「俺はあっちの会社に行くことを決めてからずっと、覚悟を持って準備してきた」

「ずっとって...いつからですか?」

「2年半前」

「そんなに?」

「何もせずに逃げるな。まずはここでできることをやれ。それでも俺と働きたいなら正規ルートでリクルート活動して来い。採用したい人材だと判断したら雇ってやる」


俺らしくない口調に察して欲しい。感情的にならずによく考えて欲しい。

俺が選んだのは、ここの後ろ盾を失う子会社だから。

俺はそこを自力で再編させるんだ。

そんなイバラの道が待ち構えている会社に、お前とその家族を巻き込むことは出来ない。


必ず立て直してみせるけど。
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