この結婚には愛しかない
「ちょっとごめん神さん。俺わかんないです」

「うんそうだよね。付き合ってないし、なんの言葉も交わしてない。約束もしてない。彼女は俺があっちの会社に行くことすら知らない」

「え?」

「3年あれば何人の人に出会う?その中の誰かを好きになって恋人になって結婚してもおかしくない。子どもにも恵まれるかもしれないよね」

「そうですね。3年あれば十分です」

「彼女を愛してるんだ。それだけの期間ずっと」

「神さん...」

その揺るぎない気持ちが支えになり、離れていられた。離れていてもがんばれた。


「神さん俺、今日家帰ったら嫁に優しくしたい。2人目妊娠してから嫁がずっとイライラしてて、ちょっと険悪なんですよ。でも神さんと話してて、忘れてた気持ち思い出したというか...」

「花を買って帰ったら?きっと喜ぶよ」

「花かあ、買ったことないですけど、いいですね」


これは後日談。

細谷はどこで誰に聞いたのか、出発の日に羽田まで一家で見送りに来てくれた。

「神さんから、頼むからうちに来て欲しいと懇願されるようになりますから、期待しててください」と、頼もしいはなむけの言葉をくれた。


「それと、子会社のこと、例の彼女のこと。神さんなら大丈夫ですよ。だって神さんですもん」

根拠があるようでない、励ましの言葉も。
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