この結婚には愛しかない
【番外編③-2】-side神田伊織-
【番外編③】
2.だって、この結婚には愛しかないから



「ハグしていい?」

自販機でお菓子を買っていた小泉さんを部屋に連れ込んで。

戸惑う彼女に「ハグは海外のポピュラーなコミュニケーションだよ」なんて、騙すようなこと言って。

でも一応、小泉さんに拒否権はあるんだよと、両手を広げて、1歩踏み出してくれるのを待った。


3年振りの小泉さんは、頬を赤らめ、笑顔に少し戸惑いを浮かべながら俺を見上げ、飛び込んでくれた。


「(小泉さん!可愛い。愛おしい。離したくない。絶対離さない!)」


誰の目から見ても、このハグがビジネスシーンに相応しくないと一目瞭然のハグ。

何度も夢見た小泉さんとのハグ。


細く華奢な身体は柔らかで、速く強い心臓の鼓動がはっきり伝わってくる。

ああ、よかった。ドキドキしてくれてるね。

でも小泉さん。俺も負けてないよね、すごいでしょ。かっこ悪いからバレてなきゃいいけど。


「ずっとお会いしたかったです。神田専務...違うかもですけど、おかえりなさい」

小泉さんのその言葉に、喉の奥が、ぐ、と締め付けられ、目の奥がツンとした。

小泉さん。俺、結構がんばったんだよ。


「ただいま」と声を絞り出し、抱きしめる腕に力が入る。


ああ、ずっと腕の中に閉じ込めていられないかな。
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