この結婚には愛しかない



自分がもう1人いればいいのに。

本気でそう考えてしまうほどの激務続きで、口説くどころか2人きりにもなれない。


半導体事業は、大きくわけて前半工程と後半工程の2つに分けられる。

うちのように両方の工程を持つ企業は日本にはあまりなく、その点はかなり強みと言える。

しかし、後半工程の受注が数年前から緩やかな減少傾向で、さらにはホールディングスからの独立に向け舵を切った。

回復どころか、急激に悪化することがほぼ確定している。


半導体産業は、量産開始、要するに安定した売上を見込めるようになるまでに、1年以上かかるのがザラだ。

すぐに売上が上がるような商売ではないから、他の好調な事業に助けてもらいながら、せめて落ち込み分だけでも早急に回復させなければ、今後の経営が成り立たない恐れがある。


予想通の厳しさだけれど悲観的ではない。ホールディングス時代から種を蒔いてきたし、ビジネスに繋がりそうな話はいくつもある。

結局のところ、俺がすべきことはシンプルだ。

最善を見極めて、実行する。

ただ、実を結ぶまでに数年を要する。

スタートの3年を耐え、必ず次の3年で大きく飛躍するために、今は少しでも早く動いて、ひとつでも多く案件を発掘しなければならない。


だから小泉さんを食事に誘いたいのに、それさえできないでいた。
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