この結婚には愛しかない
プライベートで誘う暇がないなら、せめて社内で話がしたい。逢いたい。

コーヒーを口実に、あの日小泉さんを呼びつけた。


口の中で溶けるチョコレートの優しい甘さが、まるで小泉さんのようで。

肩が触れるたび、恥じらいを浮かべ身体を硬くする小泉さんを、抱きしめたくて仕方ない。

小泉さんが甘えてくれないから、俺からもたれかかって甘えると頭を撫でてくれて、それがとても心地よくて。

見合い写真が入った封筒を見て不安そうに瞳を揺らし、見合いをしないと言うと、とたん笑顔になる。そして俺にご飯作りたいって。

愛しすぎて、愛が溢れちゃうよね。


じっくりゆっくり口説けないもどかしさに、このままソファーに押し倒したい願望が頭を占める。

自分の中の“オス”の感情をなんとかこらえてハグに留める。

ぎゅ、と抱きしめ返してくれて、小さな手がトントンと背中をあやしてくれる。

ふと、小泉さんの力が緩み顔を見ると、いつになく真剣な表情で。

小泉さんの、その愛くるしい瞳の奥から時々覗く、強さも好きだよ。


恋人だったら。同棲をしていたら。帰る家が同じだったら。

そうすれば、今よりはずっと、一緒にいられる。


俺はもう気持ちを止める気がないから、愛を伝えたい。
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