この結婚には愛しかない
口を開こうとした瞬間、僅かな差で小泉さんの言葉が早かった。

そしてそれは、思いもよらない小泉さんからのプロポーズだった。


嬉しくて、驚いて、でもあまりにも不可解で困惑した。


俺の身体を気遣うあまり、小泉さんの自己犠牲で成り立つ婚姻関係?

俺とキミとは想いが違うの?俺は嫌だよ。愛が伴わない結婚なんて。

入籍という形から入って、身体を懐柔させる?どろっどろに甘やかして、俺に依存させる?

いやだ。そんな力技は絶対したくない。

愛し愛される夫婦になりたい。


入籍しなくていい。契約婚でいいという理解し難い提案なのに、その後に続く小泉さんの申し出は、俺を愛してると言っているようなもので。

しかも、俺を守りたいと、どうにかなりそうなくらい嬉しい言葉をくれた。


とにかく俺はこのチャンスを逃したくない。

3年間の思いの丈をぶつけたいのを一旦は我慢して、小泉さんの言葉を待った。


「それは神田さんを、」


スマホの着信がその言葉を遮る。頼むから邪魔しないでくれ。

ああ、舌打ちってこういう時にしたくなるんだね。よりによって今?


俺はこのミシェルからの着信を昨日から待っていた。

一緒に働かないかとオファーした返事で、気分屋の彼女は、今電話に出なければ、次いつ電話が繋がるか分からない。
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