この結婚には愛しかない
ベッドに座って服を直していた莉央を後ろから抱きしめて、まだ鳴り止まない着信に応え、スピーカーにしてスマホをベッドの上に置いた。


「あ、やっと出た。おはようございます。神さん誕生日おめでとう」

「...ありがとう」

「あれ?俺起こしました?声低いですよ。そんな神さんに誕プレです」

「・・・・・」


一緒に会話を聞いている莉央が笑いをこらえている。

莉央は細谷と1度だけ電話で会話したことがある。細谷がどうしても莉央に挨拶をしたいとしつこかったからだ。

『おーい誕プレ欲しいでしょ?』

「いらない。気持ちだけでいい」

『まあまあそう言わず。俺神さんの会社の中途採用にエントリーしましたから』

「は?」

『神さんもう安心してください。俺が神さんを助けますから』

「お前家族は?2人目産まれたばかりだろ」

『とりあえず単身赴任で、落ち着いたらなるはやで呼びます。嫁も神さんの会社ならって賛成してくれてます。言っときますけど、これは“逃げ”じゃないから。神さんの会社の企業分析もしました。今まで1本足だった基幹事業にテコ入れ中ってとこでしょ?その上で散々考えて決めました』

「そうか...」

ああ、本気だな。

“1本足”と表現した半導体事業、まさにその通りだ。
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