この結婚には愛しかない
「細谷さんとお話されてる時の伊織さん好きです。いつもよりちょっとくだけてて、お前とかあいつとか。素が出てるというか...」

「そうかな。そろそろシャワーしてくるね。牡蠣が売り切れる」


莉央の言う通り、細谷がうちに来てくれることは嬉しい。即戦力だ。今いる営業部隊の起爆剤になってくれるはずだ。

細谷の電話のせいで仕事モードになりかけた脳をオフに切り替えた。

今日は仕事のことは考えない。


外出の準備をしてリビングに行くと、温かい朝食を準備してくれている妻がいて。

「伊織さん」と微笑んで、優しく名前を呼んでくれる。


この日常は、決して当たり前ではないということを、俺は身をもって知っているのに、つい忘れてしまいそうになる。


「莉央、いつもありがとう。愛してるよ」


だから今日も、キミへの感謝と愛を口にするよ。

伝えられることすら、俺にとっては幸せなことだから。


「こちらこそいつもありがとうございます。今日も大好きです」


莉央がはにかみながら「ちょっとしゃがんでください」と、俺の腰に腕を回す。


少し腰を折って頭を低くすると、つま先立ちでキスをくれた。
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