この結婚には愛しかない
『専務、お電話をお借りして申し訳ないのですが、それが...今日社内で都銀の支店長と面談したのですが、やはり取引終了が受け入れられないと』

「まあそうでしょうね」

もしかして、いや、考えすぎか?


「今日の何時の面談ですか?」

「15時30分から約30分間です」

最悪だ。時間が合う。


都銀の支店長は、莉央にハラスメント行為を行っていた人物だ。私怨はあっても、それをビジネスと混同するわけにはいかない。本音は別として。

ビジネス面でいうと、様々な提案をしてくれるふたば銀行とは違って、現状維持を続ける銀行とは、俺は会う必要は無い。

経理部長レベルの対応で十分だ。


『社長か専務に会わせろと詰め寄られたので、指示通り断りました。かなり不服そうだったので、もしかしたら直接専務にアポを入れてくる可能性も考えられますので、念のためご報告させてください』

「そうですか、分かりました。ではふたば銀行よろしくお願いします」

嘘だろ、まさかそんな。


セキュリティ上、社外の人間との打ち合わせは1階の来客ゾーンにある会議室か応接室と決められている。

ちょうど同時間、ミシェルの相手から解放された莉央は、正面玄関前を通って居室に戻るはずだ。

ノック音の後、部屋に入ってきた大森室長と長谷川くんの顔を見て確信に変わる。


間違いない、これだ。
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