この結婚には愛しかない
2人にソファーに座るよう促すと、それすら待てないといったように、大森室長が口を開いた。


「奥さんが少し前に前職の支店長と正面玄関前でばったり出くわしたそうです」

「(ああ、やっぱり)」

どうして俺はその可能性を見過ごしていたのか、自分に腹が立って仕方ない。


「それで奥さんが具合が悪くなって、」

「どういうことですか?」

大森室長が長谷川くんに目配せをすると、長谷川くんがその時の様子を再現しながら身振り手振りで状況を教えてくれた。

「俺たまたま現場を通りかかったんですけど、神田さん顔が真っ青で、支店長に腕を撫でられて」

「は?」


聞けば聞くほど怒りが込み上げてくる。

こんなに頭に血が上ったことは初めてだ。


「支店長が帰った後、気持ち悪い、息ができないって撫でられた腕をこすりながら、ぼろぼろ泣いて過呼吸になってました」

「過呼吸?」

「焦る俺と違って、このくらいならすぐ落ち着くって慣れた感じでした。どうにか医務室連れて行って、後は宮内さんにチェンジしてもらいました。定時すぎたくらいに大丈夫になったらしくて、今は家に帰りました」

「そんな...室長、以前から過呼吸になってたんですか?銀行時代の話です」

「そうですね、なっていたと聞いたことはあります」
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