この結婚には愛しかない
玄関で迎えてくれた莉央は、明らかに青白い顔で、瞼が少し腫れていた。

それなのに「おかえりなさい。早かったですね」と明るく振る舞う。


俺がいたら無理して笑う?今日はいない方がいい?ごめんそれは俺が耐えられない。

抱きしめる腕につい力が入ってしまう。


全てを打ち明けて欲しかった。こんな時でも、莉央は俺を気遣うの?

俺がいつも仕事最優先だと言ってるから遠慮してる?

それとも、こんな俺じゃ頼りない?


経理部長からメールの返信が来た。思った以上に早く会うことができそうだ。

莉央の会社のPCにすぐチャットでリスケの指示を出す。誰とのアポかを省略して。

莉央を2度とあいつに会わせるつもりはない。


どうすればあいつを社会的に抹殺できる?それとも都銀の頭取に今すぐ電話をしようかと、スマホのアドレス帳を開いて名前を検索していると、大森室長からメールの返信が来た。

経理部長は宛先から消されていた。


明日支店長と会う場に莉央を立ち会わせてはどうかと。ダメだ却下だ。ありえない。

今度は長谷川くんから、いくらか改善された提案があり、悩んだ結果、専務室で音声だけという決断をした。

その変わり、莉央が信頼している人たちにそばにいてもらおう。

俺の代わりに、支えてもらうよ。


全て終わったらすぐ駆けつけるから。
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