この結婚には愛しかない
「最初は私は悪くないって思ってたんです。悪いのは支店長だって。でもだんだん、ああ、私が悪いんだ。こうなったのは全て私に問題があるんだって思い始めて」

「違う!莉央は悪くない」

「ありがとうございます。でもずっとそう思いながら仕事してたんです。半年がんばったんですけど、ついに仕事に行けなくなりました」

莉央の声は力強い。

過去のこととはいえ、あまりの理不尽さに耐えられない。

俺の方が泣きそうで、ハンドルを強く握って、何とかメンタルとのバランスを保つ。


「仕事に行こうとしたら頭が痛くなって、吐いたり過呼吸になったり。母に付き添ってもらって心療内科を受診しました。それから...鬱の手前の適応障害と診断され休職しました。毎日家で薬を飲んで、仕事のことは考えるなとお医者様に言われたのに、ずっと仕事のことばかり考えてしまうんです。私が休んでる間、同僚の負担を増やしてしまっている。やっぱり私がこんなだからみんなに嫌われたんだと思うと、また息が苦しくなって、」

ハンドルから片手を離し、手を伸ばして莉央の手を握った。

聞いていて心が痛い。耳を塞ぎたい。


ごめん莉央。俺今そっち向けない。前を見ていないと、目に溜まった涙がこぼれ落ちてしまうから。

気の利いた励ましの言葉もかけられない俺を、どうか許して欲しい。


「退職を決意したとき、大森室長が自宅まで来てくださって、一緒に転職しようと手を差し伸べてくださいました。母と1晩中話し合って、もう1回だけがんばってみよう。それでダメならもう実家に帰ってのんびり暮らそうという結論を出して、転職しました」

「うん」
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