この結婚には愛しかない
「転職後に、徐々に薬が軽いものになって、投薬治療を終えました」

「よかった、」

「神田室長、伊織さんのおかげなんです」

「俺?」

「神田室長なら信じていいかもしれない。信じたいと思えたからです。誰に対しても優しくて、誰に対しても厳しい神田室長の裏表のない誠実なところに救われて、惹かれたんです」

「でも俺、仕事では狡い駆け引きをすることもあるし、他社を出し抜くために顧問弁護士と相談しながら、違法にならない際どいライン攻めることもあるし、今日のようにハッタリかますことなんてしょっちゅうだし、」

「それも含めて、かっこよくて仕事ができる憧れの上司の神田室長、神田専務です。1度恋心を自覚したら、もう好きが止まらなくて。神田さんと目が合うだけで恥ずかしくて、そばにいるだけで赤面しちゃって、」

「それは今もじゃない?」

「意地悪。だって伊織さん、かっこよすぎて罪深いんです」

「ははっ、俺罪深いの?」

ヤバい!と思った時には手遅れで、笑って細めた目から一瞬で涙が溢れ、頬を伝ってしまった。

せめて莉央には気づかれないようにと前を向き続けたのに、ハンカチを手渡されてしまう。

最悪だ。


「とにかく自分に自信が持てなかった私が、昨日ミシェルさんに詰め寄られた時、伊織さんは私を愛してくれてる!その...身体も満足してくれてる!って胸を張って言えました」

「ミシェルはそんなことを?ごめんね不快な思いしたね」

「伊織さんがありのままの私を受け入れてくださったから、強くいられました。いつもたくさん愛情表現してくださるからです。ありがとうございます」

「俺も、愛してくれてありがとう。俺のことを理解してくれて、信じてくれて」

「どうしよう。伊織さんの泣き顔が美しすぎて言葉が出ません」
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