この結婚には愛しかない
「お腹すいてますか?もうご飯の準備できてます」

「すいてる。今日のメニューはなに?」

「帰ってからのお楽しみです」

片手に花束、もう片方の腕で俺の腕をぎゅっと掴んで笑ってくれるこの瞬間も、全てがかけがえのない時間だ。


書斎に鞄を置き、手洗いうがいをして戻ると、手巻き寿司の準備をしてくれていた。

酢飯、海鮮、海苔、数種類の材料がテーブルの上に並べて置いてあるだけで華やかだ。

幼い頃の楽しかった記憶、家族との思い出がいつも必ず蘇る。

俺にとってこのメニューは今も特別で、莉央は必ず祝い事や嬉しいことがあると手巻き寿司を作ってくれる。


「ビール飲まれますか?」

「うん飲みたいな。莉央も飲もう」

「うーん私は遠慮しときます」

「そう...今日は契約とれたお祝いで手巻き寿司?」

「違います。あ、もちろん契約とれたことは嬉しいんですけど...実は伊織さんにプレゼントがあります」

向かい合って座る莉央から、横15センチ程の長方形の小ぶりな箱を渡され、「開けてみてください」と促される。


「え?これ...」

中には妊娠検査薬のスティックと手紙。スティックはピンク色の線が2本、くっきり浮かんでいた。


「伊織さん。子どもができました」


表現しようがない喜びが込み上げてきて、言葉にならない。
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