この結婚には愛しかない
「え?今日7月...あっ、ほんとだ」

「俺にとって今日は、3年間忘れられずに想いを募らせた莉央からプロポーズしてもらえた大切な記念日だよ」

「肝心な気持ちを伝えきれなかったし、伊織さんがしてくれたみたいな素敵なプロポーズじゃなかったのに...できることならやり直したいです」

「ダメ。あの日があるから今があるんだよ」


「はあ、かっこいい」ため息混じりに呟いた莉央がしばらく俺を見つめたまま固まった。「莉央?」と声を掛けるとやっと反応してくれ、胸を撫で下ろす。

「伊織さん。尊いとはまさにこういう気持ちが言語化されたんでしょうね」

「ははっ。ほらもう着いたよ。雨やんでるよね?ちょっと外出ない?」

駐車場に車を停め外に出た。足元が悪いから、もしもの事があったらいけないと、しっかり手を繋いで歩く。


コーヒーショップのすぐ近くの、少し奥まった場所にある本当に小さな公園だ。屋根付きのベンチがあるだけで、遊具もない。

ただ、ベンチ脇の紫陽花が圧巻で、先日偶然見かけて、見頃が終わってしまう前に莉央を連れてきたかった。

こんな天気だからか、人が誰もいない。


「伊織さん!紫陽花がすごいですよ!かわいい」

「莉央の方が可愛いよ」

「伊織さんまたそんなこと...」

「事実だからしょうがないよね」


ベンチが濡れていないのを確認して腰を下ろした。まだ紫陽花を眺めている莉央を、しばらく見つめていた。
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