この結婚には愛しかない
「小泉さん今日心ここに在らずですよね。仕事中もさっきの飲みの間も。いつもみたいにしゃべらないし笑顔も少なかった。やっぱりホールディングスの買収はショックですよね」

「...そうだね」

「うちも買収されるんですかね。って、聞いてます?」

「ごめん、聞いてる聞いてる」


長谷川くんに顔をのぞき込まれハッとした。ごめんね、聞いてはいるんだけど、内容が全然頭に入ってこないの。

ホールディングスの買収を知ってからずっと、自分の会社のことよりも、自分の今後のことよりも、ただひとつ。

他のことが気になって気になって、長谷川くんの指摘通り、心ここに在らずの状態が続いているから。


「こんな時に言うことじゃないかもしれないけど、」

そこまで言って、長谷川くんがふう、と息を吐く。

「どうしたの?」

「俺、小泉さんが好きです。会社がどうなるか分からないから、とりあえずすぐにでも自分の気持ちは伝えておきたくて」


表情、声、視線。

いつもの『なんて、信じました?』みたいな冗談じゃないことが伝わってくる。
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