この結婚には愛しかない
「スマートに自分の車で迎えに来れたら良かったんだけど、俺車なくて。東京じゃ不要だったけど、こっちだと必需品だよね」

走り出したタクシーの中で、隣に座った神田専務が私に笑顔を向けてくださる。


「神田さんドライブお好きでしたもんね。私もよく意外って言われるんですけど運転好きなんですよ。佐和とのドライブはいつも私が運転手です」

「そうなんだ。じゃあ今度小泉さんの車に乗せてもらおうかな」

「はいぜひ!」

「今日はいつでも行けます!いつにします?って言わないの?」

「あ...」

恥ずかしい。この前食事に誘っていただいた時の...

意地悪に笑う神田専務。あの頃も時々こうやっていじられた。もちろん当時はそんなところにも惹かれた。

それは今も変わらず、もう、神田専務の全てに心を奪われている。


「それに俺、家もないんだ。今ホテルに向かってるんだけど、」

「ホテルですか!?」

「ははっ、出張の荷物を部屋に置かせてよ」

「どういうことですか?」

「こっち来てから会社の用意してくれたホテルにずっと泊まってるんだ。でも契約期限満了までに家を探さなきゃ」

「神田さんはホテルでゆっくり過ごせていらっしゃいますか?」

「んー、それなりに」
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