この結婚には愛しかない
「その“何か”の答えはすぐわかったけど分からない振りをしたかった。でも毎日送られてくる小泉さんからのメッセージが、そうはさせてくれなかった。日常のちょっとしたひとコマを知らせてくれるメッセージや、俺を心配してくれるメッセージが。ホールディングスに戻ればそのうち消えると思っていたのに、俺の心はますます小泉さんに占められていった」
初めて明かしてくださる神田さんの胸の内。神田さんの紡ぐ言葉の一つ一つを聞き逃さないようにと思うのだけれど、どんどん胸が熱くなってしまう。
「一緒に働いていて、小泉さんの好意は気づいていたよ。ただ、憧れてくれてるのか、俺と同じなのかは曖昧だったけどね。でも嬉しかった。女性から好意を寄せられてこんなに嬉しかったのは初めてだった。でも1年しかいれらないと分かっていたから、断ち切るしかないと思ったし、断ち切れるとタカをくくってた」
「神田さん...」
「小泉さんと共有したいと思った異国の風景や食べ物を写真に撮っては送って、花が好きだと言っていた小泉さんの誕生日には、毎年花の写真を送って。気づいてなかったでしょ。今年は直接渡せて良かった」
全然気が付かなかった...まさか神田さんが誕生日をご存知とも思わなかった。花の写真は、綺麗だったから送ってくださったとばかり思っていた。
それが、遠くにいても私を思い出してくださっていたなんて。
なんで私は神田さんに会いに行かなかったんだろう。
なんで行動もせず、ただ想うだけしかできなかったんだろう。
好意が気付かれていたなら、あの別れの日に想いを伝えればよかった。