この結婚には愛しかない
5.謙譲語と尊敬語は夜に溶かされる
壁2面の開放感のある大きな窓が印象的な、広くて豪華なお部屋だった。
絶対この部屋、俗に言うスイートルームだ...10人は座れる大きなL字型ソファーセットと壁掛けのテレビ。ミニバーがあって、それから...
とても広いベッド。
ベッドを避けるように背を向け、夜景を眺めようと窓に近づくと、そんな私を見透かしたように、神田さんが後ろから抱きしめる。
「酷いな、せっかく2人きりなのに俺を見てくれないの?」
体中に力が入ってガチガチの状態で窓ガラス越しに目が合って、顔を覗き込んできた神田さんの指であごを持ち上げられ、ぎゅ、と固く目を閉じた。
「そんなに緊張しないで」
「無理です。ほんと無理なんです」
「そんな無理無理言われると悲しくなるよ」
「ごめんなさい。でももうとっくにキャパオーバーで」
「まだ何もしてないのに?」
「(まっ、まだっ!?何もって!?)」
もう恥ずかしがるような歳じゃないのは分かってる。でも、憧れで、恋焦がれていた神田さんが相手だとそうはいかない。
いくつになっても、好きな人の前ではこうなってしまう。