この結婚には愛しかない
「もちろんだよ。というわけで罰ゲームね。“承知致しました”“してくださいませんか”って、プライベートで口にする言葉じゃないよね。これちょっとごめんね」

そう言って、紙袋をソファーの端にどかされた。


「申し訳、あ、いえ、すみません」

「ははっ冗談だよ。例えゲームでも小泉さんに罰なんか与えられないよ。ん、...そうだな。お礼が欲しいな」

「お礼ですか?」

「そ、キスがいいな。ここでいいから」


神田さんが指さされたのは頬で。

にこにこと微笑んでいる頬が、指で押されてえくぼみたいでかわいくて。

じ、と見つめられ、覚悟を決めた。


「(えいっ!)」

一瞬だけ、触れるか触れないかのほんの一瞬頬に触れた唇。自分の顔が燃えるように熱くなっていくのがわかる。


「じゃあ俺からもお返しするね」

「(え?)」

ちゅ、ちゅ、と2度、私の頬に神田さんの唇が触れる。


「莉央」

優しく、優しく名前を呼ばれ。


「莉央?」

甘えるように請われ、じっと目を見つめられると、ロックがかかったように目が離せない。


「伊織さん...」


ふ、と口角が上がった伊織さんの唇が、唇に触れた。
< 87 / 348 >

この作品をシェア

pagetop