この結婚には愛しかない
「かわいい。ごめん止まらない」


私の腰に回されていた伊織さんの両手が上に移動する。首の後ろに留まり、ジーと音を伴って下に降りる。

「(あっ、)」

伊織さんは流れるような手つきでワンピースのファスナーを下ろした。


顕になった胸元がちょうど伊織さんの目の前で。されるがままに身を委ねる。

伊織さん伊織さんと名を呼ぶたび、キスで返事をしてくれる。


「余裕なくてごめん。ちゃんとしたいからベッドに行こう」

はい、と答えようとしたのに声が出ず、ん、と喉を鳴らす。相変わらず頭はぼおっとして、全身が熱い。

膝の上の私ごと立ち上がった伊織さんが、そのまま私を抱いてベッドに移動する。

「伊織さんっ、重いです!」

「ストレス解消に筋トレするんだけど、いつも上げてるベンチプレスの方が全然重いよ。莉央なんか片手でいけるよ」

「(そんなわけない!)」

ベッドに優しく寝かされ、ベッド脇に立った伊織さんが笑いながら「あっつ、暑いね」とジレ、ワイシャツの順に上半身の着衣をどんどん脱いでいく。


ああ、本当に伊織さんと...

そう思うと不安が膨らむ。最後にしたのは...最後に彼氏がいた時から、実に6年以上のブランクがある。

伊織さんに、とても満足していただけるとは思えない。
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