あなたの子ですよ~王太子に捨てられた聖女は、彼の子を産んだ~
 それが今、たった一枚の紙切れによって、ないものにされようとしている。
 ローテーブルの上に置かれた紙に視線を走らせる。婚約解消届――それがその紙の名でもある。
 すでにクロヴィスのサインは入っているし、先ほどの約束事もクロヴィスの直筆で書かれていた。
 ウリヤナは小さく息を吐くと、側にいた文官よりペンを受け取った。
 聖女となったウリヤナは、とっくにカール子爵家の令嬢としての身分は失っている。聖女は聖女であって、聖女以外の者であってはならない。
 だから、この婚約が解消されたとしても、両親にはなんのお咎めもないはず。
 ウリヤナがサインを終えた途端、クロヴィスは乱暴にそれを奪い取る。すぐさま文官に手渡し、議会に提出するようにと口にする。
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